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三話【放課後(中)】
いっそ、好きでいることをやめられたらいいのに。そんなことを、ぼんやりと考える。
「か~さ~の~! 帰らないのか?」
「先帰ってて……」
「何だよいきなり……じゃあ、また明日な」
クラスメイトに力無く返事をして、ヒラヒラと手を振った。
クラスメイト数人がオレに対して何かをぼやきつつ、教室から出て行くのを話し声や足音で聞きながら、椅子の上で脱力する。
(相田……帰り、どうするんだろ)
女子との話を聞いていると、相田はどうやら傘を持ってこなかったらしい。
厳密に言うと、家にあった傘が一本壊れていて、壊れていない傘を家族に使わせたから、自分は走って学校へ向かった……と、話していた。
家を出なくてはいけないギリギリの時間まで雨が止むか小降りになるのを待ってみたけれど、意味が無かった……とも、話していたっけ。
放課後になった今も、今朝と変わらない激しさで雨が降っている。傘を持っていない相田がどうやって帰るのか……気になってしまう。
(傘、一本しか持ってないしなぁ……)
折り畳み傘でも持っていたら、相田に貸せたのに。そう思っているあたり、ヤッパリ相田のことを諦められそうもない。
どんよりした気持ちのまま机に突っ伏していると、女子の声が聞こえた。
「ねぇ、相田君……帰り、どうするの?」
その声は、相田に向けられたもののようだ。
あまりにもタイムリーな話題に、思わず聞き耳を立てる。
「下校時刻ギリギリまで、雨が止むのを待つつもりだ」
「早く家に帰りたいな~とか、思わない?」
「濡れるのは避けたい」
実に、相田らしい答えだと思う。
相田の返事を聴いた女子は暫く黙り込んでいたが……意を決したかのように、あることを提案した。
「……っ、じゃあ……傘、貸そうか?」
「それは魅力的な提案だ。君は傘を二本持っているのだな」
「ううん……一本だけ」
女子の返事に、堪らずオレは顔を上げる。
放課後になってすぐ、制服に着替えたらしい相田の席を見ると、顔を真っ赤にしている女子が立っていた。
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