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隔絶
その日は、放課後八雲さんと待ち合わせて一緒に帰っていた、はずだった。
いつも通り他愛もない話をして、いつも通り別れ際にこっそりキスをして、いつも通り家に帰って……。
そのはずなのに、気がついたらまったく見覚えのない部屋で横になってた。
「起きたんだね」
聞き覚えのありすぎる大好きな声の方を振り向けば、八雲さんが困ったように笑っていた。
「あの、ここって…」
「わからない…気がついたらここにいた。南もいたから、聞けばわかるかなって思ったんだけど…」
八雲さんも、なんでここに俺たちがいるのかわからないらしい。
オレは首を横に振って、部屋をぐるりと見回してみた。
どこかのアパートのような、ごく普通のワンルーム。
だけど窓という窓は何かに塞がられていて、外の様子がまったく窺えない。
部屋は照明がついているけど、時計もなくて今が何時なのかまったくわからない。
部屋の隅には布団が1組敷かれている。
オレたちはここで横になっていたみたい。
そして、キッチンの上には薬の瓶のようなものが1列に並んでいる。
数えると全部で6本あるみたいだ。
なんの薬なのかは、ここから見ただけじゃわからない。
ジャラ――
八雲さんに近寄ろうとしたら、金属がぶつかりあう音と、足首に違和感があって。
「これ……」
今まで気がつかなかったけど、足首が、鎖で繋がられていた。
一気に身体中の体温が消えていって、心臓がドクドクとけたたましく鳴る。
慌てて八雲さんの足元を見れば、オレと同じように鎖で繋げられていた。
「やだ、なんで、こんな…」
「落ち着いて、ほら、ゆっくり深呼吸して」
八雲さんにぎゅっと抱きしめられると、本当に落ち着いてくるから不思議だ。
大きく深呼吸をして、もう大丈夫だと笑ってみせる。
ちょっと情けない顔になっちゃったかもしれない。
「ん、いい子」
ちゅ、とおでこにキスをしてオレから離れて八雲さんは、キッチンのほうへジャラジャラと鎖のことを鳴らしながら歩いて行って、封筒を手にして戻ってきた。
「なんですかそれ?」
「俺のほうが先に目が覚めたから、危ないものがないかチェックした時に見つけたんだ」
こんな非常事態のときでも、オレのことを考えて動いてくれる八雲さんに心臓がきゅっとした。
ときめいてる場合ではないことはわかってるんだけど、好きの気持ちが溢れ出てくる。
封筒を開けて、中からメッセージカードを取ってオレに差し出して受け取る。
《キッチンに置いてある瓶は、ひとつ飲むごとに相手のことを忘れていく薬です。この部屋から出たければ、その薬を全部飲んでください。
捨てるようなことがあれば命の保証はしません。》
声を出して読んでいたオレの喉は、後半になるにつれて息が苦しくなるほど詰まっていった。
「八雲さん……これ……」
喉がカラカラに乾いて、声がうまく出せない。
この部屋から脱出しなくてはならないと、頭に警鐘がけたたましく鳴り響いた。
「……正直、俺はこのカードの言う通りにするのが一番安全だと思う」
「で、でも、そしたら――」
「わかってる」
オレの言葉を遮った八雲さんは、悲痛そうな顔をしていて……オレは何も言えなくなってしまった。
八雲さんは黙ったまま、斜め上に指を向ける。
その方に視線を向ければ、カメラのレンズがオレを捉えていた。
「っ、」
「そういうことだから、ヘタなことしたら本当に何をされれかわからないんだ」
「オレ……八雲さんと一緒なら、怖くないです……」
なんて強がってはみたけど、実際は声も身体も震えてしまって今にも泣いてしまいたい。
八雲さんがいるからなんとか耐えられている状態ということが、痛いほどよくわかる。
「守ってやれなくて、ごめん」
「やだ、謝らないで……」
「こんな危ないこと、お前に絶対させたくない」
「うん…伝わるから、今はそれで大丈夫です」
八雲さんは顔を歪めて辛そうな顔をしていて、なぜだか胸の奥がもやもやした。
なんだか、違和感があるような気がしてならない。
そんなオレの思考を遮るかのように頰に手を添えられて、痛いぐらい優しいキスをされた。
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