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優酷
「俺から先に飲む」
そう言って、八雲さんはオレを
安心させるように微笑んだ。
こんな状況なのに、八雲さんの優しさが嬉しくて、安心してしまいそうになる。
「なんか変だと感じたらすぐ言ってください」
「そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だから」
よっぽど顔が強張っていたのか、そんなオレの顔を見て八雲さんはくすっと吹き出した。
頭をわしゃわしゃと撫でられる。
いつもの声、いつもの手、いつもの体温なのに、拭えないこの不安はなんだろう…。
胸がざわざわしたまま、八雲さんは一番端の瓶を1本取り、オレにアイコンタクトで飲むことを合図してくる。
本当は頷きたくなんかない。
けど、ここで駄々をこねたところで状況が変わるとも思えないし、他の案があるわけでもない。
八雲さんを困らせたくなくて、オレはゆっくりと頷く。
「いい子」
オレは違和感を拭えないまま、八雲さんが瓶に入っている薬を飲み干すのを黙って見届けるしかなかった。
飲み終えた八雲さんは瓶を置いたあと、しばらく考え込むように目を瞑った。
話しかけづらい空気だったから、オレは固唾を飲んで待つ。
もし、目を開けた時にオレのことを忘れていたら…。
存在そのものを、忘れてしまったら…。
考えたくないことが次々と頭に浮かんで、じわっと目に涙が浮かぶ。
不安で押しつぶされそうになって、声をかけようとしたら、八雲さんがゆっくり目を開けた。
「あの…オレのこと、わかります…?」
ああ、バカだ。最初からこんなことを聞いて。
前に八雲さんにも言われたことがある。
聞きたくないことを積極的に聞きにこようとするなって。
八雲さんは、もう忘れちゃってるかもしれないけど…。
「…ぷっ、あはは!」
「な、なんで笑うんですか…」
「いや、ごめん。前にも言ったろ?聞きたくないことを積極的に聞いてくるなって」
オレはその言葉を聞いて、溢れそうになる涙をぐっと堪えた。
オレと同じことを考えていたことも嬉しいし、オレに向けて言った言葉をちゃんと覚えていてくれたことも嬉しい。
「八雲さんー…」
「なーに、泣きそうな顔しちゃって」
「だってぇ……」
「あーもうほら、泣かない泣かない」
くすくすと笑いながら、そっと指で涙を拭ってくれるその優しさにまた涙が出てきて。
こんな情けないところ見られたくないのに、オレの気持ちなんか無視して涙が流れ続ける。
「ほら、顔上げて」
「うー……」
涙を拭っていた手を滑らせて頰に添えられ、くいっと顔を持ち上げられた。
ゆっくり近づいてくる八雲さんの瞳から目が離せなくて、唇が触れるか触れないかのギリギリのところで止まる。
「なに、見たいの?」
八雲さんの湿っぽい声と吐息がオレの唇に直接当たって、腰からぞくぞくと興奮してしまう。
いつも、その吐息を漏らすことなく感じていたい。
「み、見たい、です」
こんなのからかってるだけだってわかってるのに、否定するのもなんだか悔しくて、しなくてもいい意地を張っちゃって。
本当、オレってかわいくない。
「目閉じるなよ」
オレの反応を窺うようにぺろっと唇を舐められて、まずは触れ合うだけのキス。
八雲さんはキスする直前で目を瞑って、離れたときに瞼を開けた。
その一連の流れが色っぽくて、オレの目は釘付けだった。
「見惚れた?」
「…はい」
「もっとしていい?」
「……はい」
期待に唇が震えて湿った吐息が漏れ、今度は塞ぐように唇が重ねられた。
もう何度も八雲さんのキスを受け入れたオレの身体は、その柔らかさを感じる度にじゅくじゅくとした疼きが底から湧き上がってくる。
「このまま、のめそう?」
何を、なんて、聞かなくてもわかる。
オレは静かに頷くと、目を瞑って流し込まれる液体を受け入れるしかなかった。
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