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最終話

 一瞬の静寂。それは雨が止んだことをふたりに告げた。 「それで、巧くん。どうしたい? 俺を殺すか、それとも……っ?!」  急に倒れこんできた巧の重みで、良一は息を詰まらせる。 「ああ、やっぱり。僕のこの気持ちは、恋で間違いなかったんだね」  巧はほんの少し上体を起こし、互いの鼻と鼻がくっつくほどの距離で良一を見つめた。 「アンタも、良一さんも僕のこと、好きだよね?」 「ああ、好きだよ。そうじゃなかったら、あんなことできない」  そう言った良一の顔は、あの時巧が見た記憶の中と同じ、聖母のような笑顔をしていた。 「ずっと、神様に尋ねてたよ。神様、あの子は幸せになれたのでしょうかって」 「幸せじゃ、なかった。でも、今は本当のことが分かって幸せだよ」  巧は良一の頬を両手で優しく添え、触れるだけの口づけをした。 「良一さん、今度はちゃんと、抱いていい?」 「いいよ。巧くんの好きにしたらいい」  薄く開いた良一の唇に巧は舌を這わせ、そのまま深く口づける。  唾液で濡らした指を良一の後孔にあてがうと、キュンッと締まったあとにじんわりと緩みだした。  良一のからだは巧を受け入れようとしている。  巧は良一の内壁が傷付かないように、ゆっくりと自身を埋め込んだ。 「んぁ、ああ……」  ゆっくりとした巧の腰の動きに合わせて、良一の汗を含み重たくなった前髪が揺れる。  巧が良一にキスをすると、それに応えるように舌を絡め、ぴちゃりと水音を立てる。  良一のその顔は、聖母が法悦にひたるような表情だった。それを見た巧は満足げに、もう一度深く良一に口付けをする。  粘膜同士が重なり合い、そのままふたりがひとつの塊になった。      ※  雨の止んだ空で、風が雲を遠くへやる。雨上がりの夜空は、月や星が明るくきれいだ。  薄汚れたカーテンの隙間から月明かりが射し込み、それに照らされ、良一は目が覚めた。  汗と吐き出された白濁が乾燥して皮膚にへばりついている。良一はそんな自分の体を見て小さく笑った。  良一はベッドの真横の窓を開ける。蒸し暑い室内にひんやりとした風が吹き込む。 「君が真実だと思ったことが、真実なんだよ。巧くん」  雨上がりの6月の風はまだ冷たい。そんななか特別冷たい風が室内に吹き込み、巧は身震いして隣の良一にすり寄った。 「俺は、ずっと本当のことしか言ってない。だって俺は、邪魔になりそうな君のお母さんを、殺そうと思って殺したんだから」  額に張り付いていた巧の前髪を、起こさないようにかき上げた。 「おかえり巧くん、俺の救いの、いとおしい子。ずっと君を思い続けてきたよ」  良一はゆっくりとベッドに沈み、巧を抱き寄せて目を瞑った。   ◆了◆

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