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第1話

その狭いオフィスの会議室には二人の初老の男と20代後半の男が机を囲んで座っていた。 全員スーツ姿だ。 20代の男、大内隼人は大柄な身体を緊張させて、古びた小さい椅子に座っていた。 隼人の隣に座る、白に近いダークグレーの髪に同じ色の顎髭を蓄えた初老の男、佐久間が言った。 「少し早いですが、始めますか?」 「いや、もう少し待ってください。狭霧くんがこれから来ます」と向かい側に座るもう一人の初老の男間島が答えた。「時間に正確なので、もう来ると思います」そう言いながら彼は会議室の壁にかかる時計を見上げた。 「狭霧?」と隼人は聞き返した。 「はい。フリーランスでうちと契約しています。まだ、若いんですが、腕は確かですよ。お役に立てると思います」 隼人は、佐久間をみる。「佐久間さんも知ってる人ですか?」 「いえ、若社長。私は、現場の方には会ったことがありませんです」 「狭霧というのは、珍しい名前ですね。知り合いかもしれない。下の名前はなんですか?」と隼人は間島に尋ねる。 そこに、受付のベルがチリンと鳴った。間島は席を立つ。「今来たようです」 そして、受付に出迎えに言った。 佐久間が立ち上がったので、隼人も一緒に立ち、来訪者を待つ。 間島の後ろから来た若い男が、狭霧だ。 隼人は、一度彼を見ると、目をそらせなくなった。 顔がこわばって固まっていく。 狭霧圭だ。 間違えるはずがない。彼、そのものだ。 前髪をかきあげた右手の指は細い。柔らかな頬に整った鼻筋。優美な唇。長い睫毛。尖った目つきがこうも悪くなければ、息をのむ美青年だろうに。 耳には黒い石のピアス。スリムなシャツにジャケット、スラックス、ランニングシューズというラフな風情だ。 彼も、隼人を認めた。 頭からつま先まで視線を走らせ、顔に戻ってくる。それから、誰にでもわかるように、あからさまに顔をしかめてみせた。 「若社長のご挨拶、っていうから、どこのデクノボーがくるかと思ったら、お前かよ」 「こ、こら。狭霧くん。なんてことを。お客様ですよ」と間島がとりなそうとしている。 隼人も「俺で悪かったな」気を取り直して、なんとか答えられた。 「悪いなんて、とんでもないことでございますよ。若社長さん」生意気な唇の端が持ち上がり、慇懃無礼な話し方をした。

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