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第93話

ソファーに座ると、目の前に立って、まだ、謝ってくる隼人を見上げた。 言いたいこと全部言って、すっきりするつもりだったのに、自分の方がぐったりしている。 「圭」と隼人は呼びかけてきた。「すまなかった」 「それ、もう、聞き飽きた。何回言っても許さないから、やめて、帰れよ」と圭は言った。 「すぐに許してほしいとは言わない。だけど、もう一回、チャンスをくれないか」 「チャンス?」何を言ってるんだ。 聞き返す圭に、今度は、隼人が謝罪以外の言葉を続ける。 「圭と一緒にいたい」と隼人は言った。「傍にいさせて欲しい」 圭は、息を吸って、はいた。 「圭といられる時間をくれないか」隼人の目は真剣だ。 圭は、何も言えなくなった。 隼人の背後のローテーブルに、先ほど鶴見が置いていった手紙の束があるのが、目の端に入ってきた。 隼人は、何度も手紙を書いていたのだ。返事がなくても、届いていないだろう手紙を。 わずかな可能性にかけて、繰り返し。 圭を探していたのだ。 隼人から伸ばされた手を、もう、避けることはできなかった。 指先が、頬に触れた。 隼人が身体をかがめ、圭によせてきた。 手には、力が入らず、押しのけることもできない。 代わりに発した制止の声はどうしても小さくなる。「頭、どうかしてんじゃないか」 間近で隼人が囁くように同意した。「そうだと思う」 初めて会った時からずっとだ。と彼は言った。 高校の講堂で会った、あの時から。ずっと、お前のことを想っていた。気が狂いそうになるくらいに、圭のことばかり想っていたんだ。 伝えなくて、すまなかった。 なにを、今更、と思った。だけど、抵抗はできなかった。 隼人の腕が背に回り、抱きしめられた。 圭は目を閉じた。 隼人の告白が、優しい声で、身体の中に入ってくる。 それは、ずいぶん前に、圭が聞きたかった言葉。 あの海の見える別荘で目を覚ました時に、隼人から告げられるべき言葉だった。

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