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第9話

「最悪ー!もう学校にいけんやん」 流星はシーツの中で弱音を吐く。 担任は「結婚式には呼べよ」と言って学校へ戻り、母親もニヤニヤしながら「葉月くんうちの馬鹿よろしくね」と帰って行って医者は「今夜様子みて、明日帰っていいから」と普通だった。 ただ洋一が落ち込んでいるように見えて不思議だった。 「僕は嬉しかったけどなあ」 葉月の声が聞こえる。 「ボールから咄嗟に僕の事守ってくれたし、皆カッコイイって言ってたよ、動くの早いって」 流星はバレーボールが直撃し、救急車で病院に運ばれたのだ。 「流星、今は誰もいないから顔を出せよ」 葉月に無理矢理シーツを剥がされた。 「アメリカの事なんだけどね」 葉月の言葉で流星は起き上がり向かい合う。 「引っ越すの両親だけだよ?」 「は?」 「僕はここに残りたいから残る」 「まじで?アメリカいかんの?」 「いかんよ?だって、流星の面倒誰がみるの?」 そう言われて言葉が出ない。 「来年から一人暮らしだよ僕」 「本当に?」 「うん、だから来年も流星の山笠みれる」 ふふと笑う葉月。 「夢の中で修ちゃんに会った。葉月ば大切にしろよって」 「修さんに?」 「じじいになってからこっちこいって酒ば飲もうって」 「修さんらしいね。きっと、向こうでも山笠やってそう」 「あー、やってるね、おっしょいって掛け声掛けてそう」 「僕ね流星が山笠やってるの見るの好きだよ、一番カッコイイから」 「葉月は締め込み嫌だって言ってたもんな」 「本当は流星の締め込み姿だって他の人に見せたくないんだからね!」 葉月はぷくっと頬を膨らませる。 「えっ?どういうこと?」と葉月に聞くと葉月の顔が近付いてきて唇にキスして「こういうこと」と言って笑った。 流星は一気に真っ赤になり「は、葉月」と狼狽えている。 「ほんと、流星って可愛いよね、見た目より純粋というか奥手というか心配だな」 「な、何が心配なんだよ!そげん奥手やなか」 そう言いながらもオロオロしている姿に葉月は笑う。 「洋一だよ、アイツ、流星狙ってるもん!」 「は?何言いよっとよ?洋一って葉月の事が好きやないと?」 「は?まじで?そう思ってたん?小学生の頃から洋一って流星が好きだったんだけど?」 「はあ?」 流星はかなり大きな声を出してしまった。 「ほんと、流星って鈍感。修さんが言ってたもんね、流星は鈍感だからって」 「な、なん、修ちゃん、鈍感とか」 「鈍感だよ、きっと僕は苦労するね」 そう言いながらも葉月は笑顔で可愛かった。 「お世話になります」 流星は葉月に頭を下げる。 「うん、とりあえずはまた勉強がんばろうか?山笠出来ない」 「分かりました葉月先生」 流星はそう言うと葉月を引き寄せてキスをした。 そして「俺だってやればできるとやけんな!」とドヤ顔をした。 本当、流星はこういう所が可愛くて困る。 葉月は流星に抱き着き「流星、ばり好きばい」と言った。 ◆◆◆ そして、梅雨が終わり夏本番。 流星が元気に山笠に参加している。 おっしょいと掛け声が街中に響く。葉月は水係で勢水を流星達にかける。 きっと来年もこうやって一緒に楽しむんだ。 end

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