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「なんか部活入んないの?」 「は……、は?」  拍子抜けをした。手首を掴みながら行う質問だとは到底思えない。  質問に答えなければ、という責任感と手首への意識に振り回され、汗が出る。 「は、入んないよ、今更だし……」 「ふーん。何やらしても簡単にこなしそうなイメージあんのに」  それは君だろ、と言いそうになった。まあ別に言っても良かったのだが。  文武両道。容姿端麗。この二語を並べただけで、校内のほとんどの人間が頭の中で彼を形成すると思う。  そうじゃない。  いや、文武両道で容姿端麗なのは間違っていない。そうじゃないことない。  そうじゃないのは、質問に答えたのにも関わらず手首を掴まれ続けていることに対して疑問を抱いていなかったことだ。 「もったいね」  勿体無いのはこうしている時間だ。それは俺にとってじゃなく、勿論彼にとって。能力も容姿もスクールカーストも全てが底辺な俺なんかとこうしてる時間が、死ぬほど勿体無い。  しかしそれを口にする勇気なんてなかった。ネガティブだ、卑屈だ、と言われ思われるのが怖いからだ。 「ん、どした? 帰りたい?」  優しい声音で聞かれ、戸惑う。胸が高鳴る。  違う。帰りたくない。この手だって、本当は離してほしくない。ずっと、このままで。 「いや、違うな」  どうしてわかった。無意識に「違う」と声に出してしまっていたというのか。 「これ以上は耐えれそうにないだろうから、もう単刀直入に聞くわ」  表情を変えるとともに手が動いた。彼が、俺の、手を握った。 「俺のこと、好き?」  夢だと思った。俺は本を読もうとして、寝落ちした。それが現在も続いている、と。  そうでもなければ、こんな都合のいい科白なんか聞けない。  手なんか、握られない。 「聞いてんの?」  夢。これは夢。顔と手が熱くなる、リアルな夢だ。  はあ、と溜息のような音が聞こえた。こちらの行動が全て反映される、リアルで長い夢。 「うわっ」  俺の慌てる声が響く。夢なんかじゃない、と言われたようなもんだ。   ギッ、と突然椅子から立ち上がる音がしたかと思えば、彼の唇と俺の唇がぶつかったのだから。

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