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兎獣人は、元来性欲が強い。 力も知性もなく器用でもない兎獣人は古代から下等生物として虐げられてきた。使用人、小間使いという名目の奴隷。それが兎獣人に生まれついた者の運命(さだめ)。しかしそんな中、Ω性の兎獣人だけは、多くの人が高い金を積んででも欲しがった。 その理由は、Ω性特有の発情期にある。 Ωが子を成す為の発情期は、どんな獣人も、人間でさえも子作りのことしか考えられない。淫らな妄想に取り憑かれ、精を欲してαを誘う。 性欲の強い兎獣人のΩ性は、一際発情期が激しいことから、愛玩用として遥か昔から多くの人々に重宝されてきた。 マシューはΩでこそないが、兎獣人特有の性欲の強さはしっかりと備えている。性欲の処理は必要最低限ではあるが、その必要最低限が他よりも多いことも自分が快楽に弱いこともしっかりと自覚していた。そしてそれが、とてもとても恥ずかしかった。 「んッ、あ、…んあッ!あ、だめそこ、ダメぇ…ッ!や、…ああッ!」 秘孔の奥にある、快楽を無限に生み出すそこ。中を拡げながらそこを刺激されて、マシューの腰はガクガクと勝手に動いてしまう。止めようと思っても止められない。 恥ずかしい。もっとしてほしい。どちらも紛れもなく本心。マシューが快楽をなんとかやり過ごそうと伸ばした手は、そリヒャルトがそっと握ってくれた。 「はぁッ、は…あ、リヒャルトさま…」 絡み合う指先から伝わる優しい温もりに安堵して、快楽に溺れた頭がほんの少し冷静になった。目の前に広がるリヒャルトの表情は、いつもの穏やかで優しい余裕ある王子様ではない。 ひとりの男だった。 リヒャルトはゆっくりと身体を起こし、乱雑に寝巻きを脱ぎ捨てた。 夜の闇に浮かび上がる光景に、マシューは状況も忘れて魅入ってしまう。 窓の外から僅かに入る月明かりに照らされる艶やかな黒髪。端正な顔を飾るのは尊い紫水晶の輝きだ。細身ではあるが引き締まった身体にはどこにも不自然な獣毛など無く、しなやかな身体が闇夜に浮かびあがる。 何故、最も人口の少ない人間が世界の頂点に立ち続けているのか。きっと、力も知性も関係ない。 ただこの美しい生き物を、神が愛したからなのだろう。 呆然と見惚れるマシューに何を思ったのか、リヒャルトは照れたような苦笑いを浮かべてベッドに戻ってくると、そこでぼうっと待っていたマシューと唇を重ね合わせた。 舌を絡め合いマシューの身体が完全に弛緩した時、とろとろになった秘孔に熱いものが触れた。 「んっ…ん、んんッ…ふ、っ…!」 ゆっくりと、しかし確実に、それは奥に入り込んでくる。 熱くて太くて硬い、捉えようによっては凶器のようなそれ。とろとろに解された秘孔はいっぱいに拡がり、異物感と圧迫感にマシューは思わず息を詰めた。 「んあッ…く…ッ!」 「マシュー、…ッ、息を吐いて、そう…大丈夫かい?」 言葉にはならず、マシューはこくこくと頷いた。 ゆっくりと、マシューの呼吸に合わせて中に入ってくる。苦しいけれど、痛くはない。それよりも、背中を撫でてくれる手が嬉しい。リヒャルトの背中にギュッと抱きついて、マシューは肌が重なる幸福感にうっとりと目を閉じた。 中でリヒャルトが脈打っている。リヒャルトの熱い吐息を感じる。重なり合った肌はしっとりと汗ばんでいる。 リヒャルトも同じように感じてくれていることが分かって、マシューは胸が熱くなった。 浮かんだ涙を、リヒャルトの唇が掬う。触れるだけのキスをする。それが合図になって、ゆっくりと律動が始まった。 「んっ…あ、ああっ…ッ!」 静寂に響く濡れた音を鋭い聴覚が捉えて、マシューは羞恥に耳を塞ぎたくなった。自分じゃないみたいな甘い喘ぎもシーツが皺を作る音も全部初めてなのに、全部が快楽に直結する。恥ずかしくてどうにかなりそうなのに、もっとしてほしい。リヒャルトが出入りする度に擦れる快楽の肉芽が、マシューから正常な思考を奪っていく。強く突かれたり優しく擦られたり、それだけでも堪らなく気持ちいいのに、リヒャルトの手は強い快楽を望んでキュッと持ち上がった丸い尻尾の付け根、先程知られたばかりの無防備な性感帯をやわやわと撫でている。 ついさっき解放したにも関わらず、また直ぐにでも果ててしまいそうな程の強い快感に、マシューは喉を反らして急所を晒した。 と、そこにさらりと触れる、漆黒の髪。 反射的にその滑らかな髪に指を通すと、首筋に小さな痛みが走った。 それが妙に、全身に響いて。 「あっ…あああッ…!」 訪れた2度目の解放にくったりと身を投げ出すと、温かい手に目元を覆われ、マシューは意識を手放した。 「…愛してるよ、マシュー。」 大きな耳が捉えた囁きが現実なのか夢なのか、マシューはもはや判断が出来なかった。 ━━━ 「ふんふんふーん、ふふん、ふーん…」 翌早朝のこと。 長い長い大理石の廊下にコツコツと響く靴音。ご機嫌な鼻歌が奏でるのはラビエル王国に古くから伝わる恋の歌。 ラビエル王国のどこまでも続く青い空を模したようなスカイブルーを使った上等な服を身に纏い、金色の髪をふわふわと揺らし深いサファイアブルーの瞳に悪戯な輝きを秘めながらその青年は迷いなく城の中を突き進み、やがてピタリと歩みを止めた。 それは、リヒャルトの自室の前。 重厚なドアを見上げると、キュッと胸元のループタイを整えてドアノブに手を掛けた。 「ル、ルイ様!困ります、リヒャルト殿下はまだお休み中で…」 「ええ!?まだ寝てんの!?もう、しょうがないなぁ…旦那様を起こして差し上げるのも妻の役目だからね!」 「しかし…!」 動揺をあらわにする侍女の制止を聞かず、ルイはバン!と遠慮なくドアを開け放った。 ベッドの中で身を寄せ合って眠るリヒャルトとマシューを発見する、10秒前の出来事である。

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