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第1話

 雨の匂いがする。大きな黒い傘を左手で差し、右手で黄色いレインコートを着た息子の小さな手を握って歩く。  息子の(なお)は今年、幼稚園に入園したばかりだ。直が産まれるときに妻を亡くしてから俺は一人で子育てをしている。再婚のことも考えたが、仕事と子育てに時間を取られて誰かと出会う時間などない。そう思っていた……。 「あ!」 「おい、直!」  急に直が俺の手を離して走り出した。ちょうど小さな公園の横を過ぎる所だった。誰も居ない、こんな雨の日に遊びたくなってしまったのか、と急いで自分も後を追って公園の中に入っていく。 「直、手を離したら駄目だって言っただろ?」  クジラの形をした大きな滑り台の所に直は居た。 「パパ、ねこ」  幼稚園に行くようになってから直は良く喋るようになったが、俺は直の指す“ねこ”を見て固まってしまった。  

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