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おねだり
設楽の誕生部が一月の二日だと聞いて、ほんの少しだけ大竹はガッカリした。三箇日が誕生日だと、二人で一緒にいることはなかなか難しい。そういえば、去年は誕生日の話にもならなかった。そうか。あの頃はまだお互いに相手を好きな気持ちだけをぶら下げて、二人で悶々としていた時期だった。しかも三箇日。さすがの設楽も、親と一緒に帰省していただろうし、自分のところに届いた年賀状にも、誕生日の「た」の字も書いていなかった。
「でもさー。今年は田舎帰らないでも良いって、父さんが」
「え?」
「ほら、こないだの夏休み、田舎で色々あったじゃん?だから、今年は田舎帰らなくても良いんじゃないって。一応、二年とはいえ受験生だからって、田舎には言っておいてくれるって」
「あぁ…」
今年の夏休みは、仕事の都合のつかなかったご両親に替わって、何故か大竹が設楽と2人で設楽の田舎へ行ったのだ。そこで親戚とちょっとしたトラブルがあり、設楽は今田舎には近寄りたくない状況にいる。
「そんなこと言ってると、本当にずるずると帰れなくなるぞ」
「だから、大学入ったら先生とまた夏休みに行くよ」
「……それもどうなんだろうな。高校卒業したら、もう俺と行く理由なんかなくなるだろ?」
「また一緒に飲み比べしようって伯父さんが言ったから、それで良いじゃん」
対人関係のトラブルは、できるだけ早く修復を図った方が良いのだが、設楽の行きたくない気持ちも分かるし、ご両親が行かなくて良いと言っている物を自分が勧めるのもおかしな話だ。
大竹がぐるぐる考え込んでいると、そんな大竹のぐるぐる等全く意に介さない顔で設楽が嬉しそうに体をすり寄せてくる。
「でね、先生。俺、一月二日が誕生日なんだよね」
設楽は期待を込めてチラチラとこちらの台詞を待っている。
「……言いたいことがあるなら、言わせるんじゃなくて自分から言え」
「先生んち言って良い!?」
間髪入れずに設楽がおねだりをする。
くそっ、可愛い面しやがって……。
「まぁ、うちの実家は都内だしな」
どうせ毎年正月の昼頃実家に顔出したら、夜には帰ってくるのだ。問題はないだろう。
「やった!プレゼントは先生で良いから!」
「だから、それは無いから!」
「ちぇ~。じゃあ、大負けに負けて、先生のアレでも良いよ?」
「アレって何だよ!」
冗談冗談と笑いながら、それでも設楽は嬉しそうだ。
「しかし一月二日か……。まぁ、最近は正月からやってる店も増えたけど、ちょっと前まではケーキも買えなかったろ?」
「え?うちの田舎は今だってどこも何にもやってないよ?正月だから誕生日ケーキなんて食べたこと無いし」
正月生まれって損だよねーと設楽はぶうたれた。
誕生日にケーキを食べたことがないなんて。この年になればまだしも、子供の頃はケーキのろうそくを吹き消したりしたかったろうに。
「デパートなら大体二日からやってるからケーキ買っとくわ。どんなのが良いんだ?」
「ありがとう!普通の苺の奴が良いかな。一緒に買いに行く?」
「いや、初売りの福袋買いに来てる学校関係者に見つかるとまずいから、一人で行ってくる。午後になったら来てくれ」
実家から電車で二駅も乗ればすぐデパートがある。それなら元日は実家に久しぶりに泊まって、朝一で買いに行けば良いだろう。
「ありがとう!先生、大好き!」
設楽が嬉しそうに抱きついてきて、頬をすり寄せてくる。まぁ、それだけで何でもしてやりたくなるんだから、俺も終わってるよな、と大竹はちょっぴり幸せ色の苦笑いをした。
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