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「……潤」
颯真の唇がわずかに動いて、潤は、はたと気がついた。
ちょっと待って。
わずかに混乱していた。
今、正気の時に僕をちゃんと抱いて欲しいって言ったよな……?
なんか、勢いに任せて、大胆なことを言いまくっていないか、と我に返ったのだ。
もともと温かい颯真の腕のなかで、急激な体温の上昇を感じる。かーっと顔が熱くなり、思わず俯く。
それは結果的に颯真の胸の中に自分の顔を突っ込んだに過ぎないのだが、それでも彼の視線から自分を隠したかった。
「潤」
頭上から颯真の優しい呼びかけが聞こえる。
「なに」
顔を上げずにただ応じた。
「顔を見せて」
「やだ」
その要望に、潤はいやいやと首を横に振って拒絶した。
「恥ずかしくなっちゃった?」
くすくすと笑う、少し弾んだ声が聞こえる。颯真はすべてをお見通しだ。
「うーー」
唸ってみせるが、颯真はどこ吹く風。
「潤」
誘うような、それでいて拒否権はなさそうな声に、仕方がなく頷いた。
「そんな風に思うことないのに。俺はすごく嬉しい」
そんな風に言われても、この羞恥心は否定しようもない。
颯真がもぞもぞと動いて、潤を少し引き離して仰向けに横たえる。颯真はそこに覆い被さるように乗りかかり、潤の表情が捉えられた。
両手を捕まれてしまい、顔を背けることができない。
潤はその直線的な視線に耐えられずに顔を背けたら、今度は首筋にキスを落とされた。
「ありがとう。正直な気持ちを言ってくれて、嬉しい」
これまでの、少し楽しげでからかうような颯真の声が、真剣で、真摯で、まっすぐな印象に変わった。
その変化に、潤も顔を上げた。
思った以上の近距離に颯真の顔があって驚く。息づかいが聞こえてきそうなほどの近さ。
「潤、愛してる。
俺は、お前だけのアルファだ」
颯真がそっと潤の唇に、自分のそれを触れさせる。
柔らかくて暖かい唇が降ってきて、潤の胸は否応なく高鳴った。
あの発情期の夜。キスをされて、気持ちが良くて幸せな気分に包まれた、あの感覚が蘇ってきた。どんなに頭が沸いていても、あれだけは覚えている。唇を交わすだけで、こんなに気持ちが満たされると知った。
唇を離して颯真が耳元で囁く。
「抱いて、なんて言われて。もう、自分を抑えられないからな」
そして再びキスが降ってきた。颯真の舌が潤の首筋を這い、さらに背筋を震わせる。潤が颯真の手を握り込んだ。徐々に官能が解放されていくのを感じる。
「ん……」
思わず声が漏れてしまう。颯真の手が、潤の髪をなでる。さらさらと指が後頭部を撫でられるだけで安堵感がこみ上げて、身体から力が抜けてしまった。
さらに颯真のキスと愛撫は、潤の口元へ。
少し唇を突くように、ついばむようなキスをしてから、颯真の唇が、潤のそこにしっとりと密着した。
自然と口が開いてしまい、颯真の舌を迎え入れる。口腔の奥にあった潤の舌が颯真によって引き出され、さらに深く唇を交わす。唾液が交わり、颯真の舌に唇に、潤は官能を引き出される感じがした。
身体全体が、ぞくっとざわつく。
思わず肩を震わせると、颯真の右手が、無防備な潤の左胸に乗った。その紅く尖る乳首を指の腹で押しつぶす。自分ではない人間が与えるその容赦ない刺激に、細い身体が跳ねた。
「ふぁ……ん」
唇を離した颯真が、鼻から抜けたような真抜けな声を漏らした潤を、優しい顔つきで頭を撫でた。
「そう、気持ちよかったら声に出して」
潤が気持ちいいことしかしないから、と颯真が呟いた。
「そうま……あ」
潤が脚を颯真に絡ませる。
愛するアルファが自分しか見ていなくて、愛していると囁いてくれる。なんて幸せなんだろうと、潤の身体の深部から、じわりと暖かい何かが広がっていく。
「好き……」
気持ちが溢れ、思わず口をついて出る。
発情期でもないのに、颯真が自分を抱いてくれる。優しく愛撫してくれる。キスしてくれる。
全てが潤にとって、夢のような現実だ。
いつの間にか、最後の砦としてあった下着も外されて、二人でベッドの上で全裸になっていた。
「……うん。俺も潤が好きだ。愛してる」
颯真の告白を聞きながら、潤は思わず絡ませた脚をぎゅっと力を込め、腰をこすりつけていた。
「おねだりかな?」
颯真が嬉しそうに問いかける。潤の身体はすでに熱くなり、身体の奥がむずむずとして、あるべきものを打ち込んで欲しいと本能が訴える。
それは身体の欲求だけではなく、満たされた気持ちからでもあった。颯真のものを埋め込んで欲しい、と身体も心も叫んでいた。
「ん……。もう……待てない」
快楽に素直すぎる返事を思わずしてしまい、颯真は少し驚いたようだったが、すぐに優しい表情に変わった。
「潤から求めてくれるなんてな。
でも、発情期じゃないから、ちゃんと広げて解してからにしような」
そう言って唇にキスを落としながら、潤のその場所に指を伸ばす。潤のささやかな男としての象徴は、すでに芯を持ち始めており、それでも太く上を向き始めている。潤が脚を少し開いて膝を立てると、颯真がいい子だね、と褒めてくれた。
颯真の指がその脚の間に潜り込む。
それだけで、潤の肌はぞわりと快感を伝え、吐息が漏れた。
「怖くない、怖くない」
潤の反応を緊張を思ったのだろう、颯真がそう慰めてくれる。正直、潤自身も快感なのか緊張なのかは分からない。颯真の首に腕を回し、かじりついた。
しかし、颯真は一端潤から身体を離し、ベッドサイドにあったローションを手にする。片手でぱちんと蓋を開くと、そこからとろりとした粘度のある透明な液体が、颯真の左手のひらを濡らした。
その一挙一動を食い入るように見てしまっていたようで、颯真がローションを指に絡めながら、潤の目の前にかざした。
「これで潤の中を広げるからな」
颯真のその言葉に、ごくりと喉が鳴った。そのとろみを纏った指から潤は目が離せなくなった。自分の中に入ってくるのを想像し、下腹の奥がきゅっと締まった気がした。
しかし、颯真のその指がまず辿り着いたは潤の右胸。ローションまみれの指で、颯真は潤の胸を這い乳首はきゅっとつまんだ。思わず潤の胸が跳ねた。
「ひゃ……」
胸をローションまみれにして、さらに颯真の手が潤の脚の間の奥に入り込む。
そのデリケートな場所に指が這われたのが感覚で分かった。
腰が揺れ、颯真の一挙一動に潤の感覚が過敏になる。
「脚、ちゃんと開いてろよ」
颯真は、潤のその場所を探るようにくりくりと指で何度もなぞってから、くっと指を僅かに入れた。
「ん……」
身体が思わず反応する。両足に力がこもり、颯真の腕を挟み込む。すると颯真が気を散らすように、ローションまみれの乳首を、右手でくりくりと刺激する。
「あっ……」
刺激と快感で背中がしなる。
「何も考えずに、気持ちいいことだけ追ってろよ」
颯真がそう言うと、さらに左側の乳首を口に含んだ。熱い口腔内で舌に転がされ、潤は訳がわからなくなる。
さらに下半身からはくちゅくちゅと恥ずかしい水音がして、その場所が颯真によって積極的に拡張されているのが分かった。
颯真の指が自分の中にいる、と考えると溜まらない。
「きもち……い」
潤がそう訴えると、颯真が良い子だ、と笑みを漏らした。
発情期じゃないから……と颯真がローションで念入りに拡張したその場所を、散々弄り広げられていくうちに、少しずつ刺激が物足りなくなり、潤は早く颯真が欲しくて、腰を揺らした。
「早く欲しいの?」
欲望を的確に言い当てられて、羞恥心もすり減った潤がコクコクと頷く。そして腰を揺らす。
早く颯真が欲しい。彼で埋めて欲しくて、潤の性器も大きく張り上を向いていた。一切触られもしていないのに、先走りの液体がとろとろと流れている。
その指が潤の中から出て行く。ゴムの封を切るのを見て、潤は嬉しくなった。もうすぐ、颯真が来てくれると確信した。
颯真が素早く自身に薄膜を装着すると、潤の腰とシーツの間に枕を挟み込んだ。腰が上がり、脚が下ろせなくなったが、潤は自分の脚を抱えて颯真にデリケートな場所を晒してみせた。
開いた足の間に身体を入れ込んだ颯真が、潤の下半身を凝視している。それだけでも刺激的なのに、颯真の薄膜に覆われた硬い性器が、潤のその場所に触れられ、わずかにぐっと入れ込まれた。
「はぁっ……!」
歓喜の声を上げて、身体がしなった。
自分は、颯真に抱かれているんだと唐突に実感が沸いてきた。今は正気で発情期でもないけど、颯真は抱いてくれている。この痛みと衝撃が伴う挿入も、颯真の愛情がないと得られないもの……。
「大丈夫? 少し早かったかな」
「……いい……。へーき。来て」
颯真が気遣いながらも、ぐっと入り込んでくる。
潤が手をかざすと、颯真がそれを握ってくれた。思わず背筋がダイレクトにしなり、脚が快感で揺れる。
「あ……ぁん」
颯真がいる、そう思っただけで、でたらめな速度で快楽の階段を駆け上がる。
急激に押し寄せたそれに、潤は背中を押されるようにして弾けた。
快感の刺激で悲鳴が漏れる。
「やぁ……あん!」
ふるふると震えていた性器は欲望を吐き出し、潤と颯真の肌は潤の白濁で濡れた。
身体が弛緩したが、ぐっと颯真が最奥まで入り込んだ。声が漏れる。身体は正直で、腰が揺れた。
「潤の中……温かい」
颯真が潤の耳元で囁く。欲望をまき散らし息を切らしている潤は、颯真を搔き抱いた。
「ごめん……一人で盛り上がって」
潤の謝罪に、颯真は一人じゃないだろと反論した。
「潤がイクところは何度見てもそそられる。叶うならイキっぱなしにさせたいくらいだ」
颯真が潤にキスをねだる。潤が颯真の唇を受け入れると、舌を入れ込んできて、同時に腰をぐっと入れ込まれた。
終わらない快感に、身体がビクリと揺れる。
「動くぞ?」
そう言われて、潤は頷いた。
颯真が少しずつゆらゆらと腰を揺らす。中を慣らすように、潤に形を覚え込ませるように、ゆっくりと快感を引き上げていく。
アルファが……、颯真が自分だけを見てくれている。颯真が自分だけを見てくれて、颯真だけを見つめる。その今を実感し、潤の官能が再び引き上げられていく。
急激ではないその快感も相まって、潤の胸に安堵感が広がったのか、幸せな気分で満たされていく。
「颯真……僕、今本当に幸せだ」
颯真のものを中に収め、胸を密着させるほどに近い距離で、潤はため息を漏らすように心情を吐露した。
すると、颯真も満足そうな表情を浮かべていた。
「俺も……。潤とこういうことができる日が来るとは思っていなかった」
潤の中が喜んでて、きゅんきゅん俺を締め付けてくる、と颯真が呟く。的確な指摘に少し恥ずかしかったが、それでも自分だけが満足しているわけではないようで安心した。
「潤、そろそろ、いくぞ」
その静かな宣言に、潤も小さく頷いた。
颯真が動く。
がつんと、颯真が最奥まで入り込む。
「はぁっ……」
思わず吐息が漏れるが、颯真の腰使いが強く速いものに変わった。抜いては突き上げる、がつがつとした快感を求める激しい動きに、潤は翻弄される。
「あ…っん。や……っ!」
颯真の激しい愛情に快感があふれかえり、目から涙がこぼれ視界がゆがむ。それでも颯真は止まらず、さらにがつんと奥を突き上げた。
「いやぁ……ん!」
颯真は潤の中からつるりと抜けて、さらにがっと入ってきた。
「出すぞ……」
思った以上に颯真の冷静な言葉だったが、潤は視界は涙に揺れて脳内は乱されて、コクコクと頷くことしかできなかった。
「くっ……」
小さな吐息に合わせて、颯真が潤の奥を突いた。そして、潤もその瞬間を颯真とともに果てたのだった。
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次回で本章完結予定です。
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