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程なくして、関係者が出社した。
連休中に突如呼び出されたのは、アルファ・オメガ領域事業部長である大西と、秘書室長の江上、メディカル・アフェアーズ室長の藤堂の三人。
連休中にも関わらず、全員都内に居たのが幸いした。皆思い思いの休暇を楽しんでいた中、呼び出されたため、私服姿だ。
社長室に一同に会する面々をみて、潤は少し申し訳なく思ったが、これも仕事と無理矢理気持ちを切り替える。
「すみません。プライベートなことでお騒がせして」
潤がそう言うと、大西が反応した。
「確かにプライベートですが、オフィシャルのように騒ぎ立てたい連中がいるということですな」
なかなか大西の表情が読み取れなかったが、いつもの彼の口調に、潤は少し安堵する。
飯田が呼び出す時に事情を説明してくれたようで、彼もここに来た時には大体の事情を理解していた。
「マスコミというのは、本当に余計なことをしてくれますな」
と、幹部二人は心底呆れたような表情を浮かべて吐息を漏らした。
藤堂は、少し潤を気遣うような視線を向けてくる。彼の真意を感じ、少し慰められる。
江上はいつものように潤の後ろに控え、時にそっと背中をさすったり、促してくれたりする。気持ちは十分伝わっていて、振り返り潤は感謝の笑みを浮かべた。
話を聞いた香田は、潤と目を合わせた時に少し驚いたように表情がこわばったが、彼は彼でポーカーフェイスを貫こうとしているのが分かった。咀嚼するのにも時間が必要だ。潤はその視線の揺れには気が付かないふりをした。
大西が腕を組んで嘆息する。
「しっかし、社長もしつこい連中に狙われたものですな。この件に関してはプライベートですから、会社として答える必要はないでしょう」
大西の言葉に、飯田と香田も頷いた。
香田が言い添える。
「そうですね。弊社は上場企業ではありませんし、そのような意味では社長は公人はもちろん、準公人ともいえません」
香田が一堂に説明する。
森生メディカルは事業持ち株会社の森生ホールディングスの傘下にある事業持ち株会社だ。森生ホールディングスも非上場企業であるため、株主の知る権利を理由に報道される上場企業の経営者のスキャンダルとは根本的に違う。そもそもスキャンダルといってもいいのかも分からない案件といえる。
「となると、なんでこんな質問状を突きつけてきたのでしょう」
飯田の疑問に、香田が頷いた。
「コメントを求めたのは形式として必要だから、でしょうか。あと一方的な掲載報告というか、掲載通知の意味合いもあると思います」
その言葉を、藤堂が引き取る。
「ということは、こういう記事を載せるのでよろしく、という報告と、見解は求めたというある意味のアリバイを作ったということですか」
「その通りです。連休明け発売であるなら、メールを送ってきた時点で記事はもう印刷に回っているでしょう。週刊ですからスケジュールもタイトです。だから、返事がない前提で事を進めていると思います。
コメントが来れば、ネットに続報としてひっそり載せるのではないでしょうか」
「……これ、最初からそう狙っていますよね」
藤堂の一言に香田も頷く。
「辛口評価なのでこの場限りにしていただきたいですが、彼らは売れてしまえばそれで良くて、その先は考えません。そのスタンスで読者にも支持されています。
訴訟だって慣れていますし、例え負けたとしても彼らの本業で何らかのペナルティやハンデつくわけではない」
香田の言葉は尤もで、相手としては厄介だと潤も思う。
「一体どんな記事になっているのやら。詳細は当日にならないとわかりません」
と嘆息するも、すでに香田は腹が座っている様子。潤と飯田、大西に視線を向ける。
「どのようなものが来たとしても、すぐにコメントを出せるように進めておきます。会社としては、森生社長のプライベートには関知していないで通します」
それに、一堂が頷く。
「そうですね」
「よろしくお願いします」
潤がそう言うと、香田は少し困ったように頷いてから、一堂に視線を向ける。
「あとは、内容はどうあれ、社内では多少動揺があると思います」
自分の会社のことが掲載されるのだから当然だろう。潤は頷いた。
「藤堂、その時は相模原含め、感触を知らせてほしい」
「承知しました」
「頼む」
対応策の相談はサクサク進む。
「社内向けメッセージも必要かもしれません」
「それは私の方で進めます」
と江上。この上ない人選なので任せることにする。
「あと社長。この情報の出所です。誰かに聞かれたとか、話したとか、そのようなご記憶は?」
飯田の問いかけに、潤は頭をひねる。
「誰がそれを拾ってマスコミに流したのかということも重要です」
しかし、この事実を知るのは森生家の一族とここにいるメンバーの他は、尚紀と瑤子と和泉、天野親子くらいなもの。
皐月会を含めた血縁が、あえて行うとは思えない。
瑤子と尚紀は論外。
和泉と天野は業務上の守秘義務の範囲であるためないだろう。
松也は、あのようなことがあっても最終的には受け入れてくれたのだから、疑いたくはない。
よくよく考えると、信頼できる人にしか打ち明けていないのだ。
「この写真が撮られたのは四月下旬とのことですから、少なくともその前には把握されていた……」
潤は頭を悩ませる。
「この話は、信頼している人にしかしていませんが、正直周囲を警戒してまで話していたわけではありません」
どこで漏れたのか現段階ではわからないが、情報というものは外に出した途端、漏れるリスクはいつでもあるのだろうと思った。
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