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穏やかなまどろみの中で、潤は寝返りを打った。腕を伸ばすと、隣側のシーツはもう冷たくて、片割れはもうすでに起床してしまったことを知る。
……そうか、今日は出勤だと言っていたし。
ぼんやりと考える。
そういえば先ほど夢現で、颯真に腕出してと言われて、そのまま抑制剤を打たれた記憶も。ぼんやりとした意識の中で、いたい……と訴えたら、すぐ終わるから我慢して、と言われた。
「俺は仕事行くけど、ゆっくり休んで。昨夜は無理させたからな」
そう耳元で囁かれ、優しく額をなでられて、安心して再び夢に落ちた。
昨日、求めすぎたのは自分だと潤は颯真の枕に顔を埋めながら思った。
颯真の運転で一緒に帰宅して、夕食は軽く済ませた。食欲はあまりなかったが、颯真がそういう時こそ食べることは大事と、消化に良さそうな野菜スープを作り、冷凍保存していたパンをリベイクしてくれた。こういう時に颯真は広い視点で落ち着いた対応をする。そんな片割れを、潤は感謝の気持ちで見た。自分はすぐに視点が狭くなってしまうからだ
そして、それぞれ入浴して、早々にベッドに入ったのだが……。
颯真が、潤を背後から抱き寄せて、項にキスをした。
「ほかほかで温かいな……」
そんな呟きに、お風呂出たてだからね、と潤も笑う。颯真がくんくんと首筋の香りを嗅いでいるので、少し高めの体温で、きちんとコントロールしているはずの香りが漏れているのだろう。
颯真の腕が腰に回り、少しどきりとする。そして手は寝巻きの上から脚の付け根を意味深に辿り……。ぞくぞくとする感覚に見舞われる。
明日仕事なのは颯真のほうなんだけどな……と思いつつも拒絶することはできず、そのままなす術なくフロント部分を触れられ、快感を拾いつつ反応を始めていた潤のものはキュンと硬くなった。
「ふぅ……ん」
目を閉じて吐息で快感を漏らすと、颯真が耳元で少し付き合って、と囁いた。
それに異論はあろうはずもない。
そこからあまり潤は記憶にない。気づいたら全てを剥かれて全裸になっていたし、デリケートなところを片割れに晒してその口を受け入れていた。彼の情熱的で優しい愛撫に腰から胸にかけて快感が駆け巡り、はち切れそうだった欲望は、いとも簡単に弾けた。
「あっ……!」
背中がしなる。
後ろも優しく丹念にほぐされて、次第に足らなくなって、腰が揺れて。薄膜を着けた颯真がやってきて、ぐぐぐっと入ってきて。再度、潤の欲望は簡単に弾け、身体は弛緩した。温かくてしっとりとした颯真の腕と身体に支えられて、一気に入り込まれて、がつがつと掘られて、突き上げられて、気持ちよくてすぐに満たされて、一緒に達した。
波が引いては押し寄せるような営みの中で、潤は何度か弾けて、そして颯真の欲望も受け止めた。
「今夜は何も考えずに寝て」
そんな颯真の言葉に優しさを感じて、二人で全裸で体温を伝えながら寝落ちたのだった。
……記憶にないと思っていたのに、すべて覚えていた。
すっかり目は覚めていた。自分の番の香りに包まれたベッドの中。
枕元のスマホを引き寄せると、すでに八時をすぎていた。
全裸で寝ていたので、少し恥ずかしくなりとりあえず下着を身に着ける。
クローゼットを開けて着替えを出し、シャツとパンツを身に着けて安堵する。昨夜の痴態を少しリカバーできた気がした。
リビングのテーブルには颯真が朝食を置いておいてくれた。すでに冷めていたが、彼の文字で、スープは温めパンはリベイクするようにとの指示。素直にそれに従って行動すると、数分で温かい朝食が完成した。
朝食を食べ始めてすぐ。尚紀から連絡が入った。
実は、尚紀が直接スマホに電話をかけてくることは相当に珍しい。いつもはメッセージアプリに電話の可否を連絡する気遣いを見せるタイプなのだ。
「潤さん、大丈夫ですか!」
手を止めて、スマホで応じると、尚紀が心配そうな声色で聞いてきた。
休日の廉を呼び出したのだから、尚紀に伝わるのは想定の範囲内だ。時間の問題だったので、潤も落ち着いて応じることができた。
「おはよ、尚紀。心配かけてごめんね」
「……そんなことないです!」
尚紀は全力で否定するが、妊夫に心配をさせすぎている。大切な尚紀になにかあったらと思うと、気が気ではない。
「あの、廉さんから話を聞いて……もう、僕びっくりして……」
尚紀が緊張して言葉を選んで話してくれているのを潤は感じる。大丈夫、心配はないと、すぐにハグして慰めたいほどに、尚紀が過敏になっているのが潤にも読み取れる。
聞けば、昨日は家でのんびりと映画を観ていたら会社から連絡が入ったそうで、不安な気持ちで番を送り出したそうだ。
帰宅してから呼び出された理由を聞いて、尚紀は動悸がおさまらなくなるほどに驚いたという。
「廉さんは大丈夫って言うんですが、僕は……」
そんな話を聞くと本当に申し訳ない。
「僕たちは大丈夫だから。そんなに心配しないで」
そう言っても尚紀は心配してしまうだろう。廉も番を心配しているに違いない。
「尚紀」
潤はしっかりとした口調で呼びかける。
「……はい」
「落ち着いて、深呼吸を繰り返して」
すると素直に尚紀はスー、ハーと深呼吸を繰り返した。
「昨晩はちゃんと寝れた?」
潤がそう問いかけると、尚紀はしばらく答えなかった。
「廉さんが一緒に寝てくれましたが……」
遅くまで寝付けなかったし、脳が休まらなかったので朝も早くに起きてしまったという。
潤は言う。
「じゃあ、今日はこれから廉に添い寝をお願いして、ちゃんと休んで?」
尚紀は自分の身体とベビちゃんのことを第一に考えて、と潤は言う。
「もう記事が出ることは決まりだけど、どんなものかは出てみないとわからないし、今からあれこれ考えていたら疲れちゃう。
大丈夫だから。このことは一旦置いておいて、尚紀は自分のことをまず考えて」
そう訴えると、尚紀は頷いた様子。
「……わかりました。僕が心配していると、潤さんの心配が増えますね」
「僕は大丈夫。尚紀の心配も丸ごと受け止める。それに、どんなことになっても、僕も颯真も……森生メディカルも簡単には潰せないよ。
番の気持ちは強いって、尚紀なら分かるでしょ?」
すると、尚紀も少し考えて、わかります、と答えた。なんて素直な答えだ。
「それに僕たちには、心配して寄り添ってくれる人がいる。尚紀に廉はもちろん、両親に会社の部下も……。大丈夫、負けない」
それは尚紀に言い聞かせるようでいて、潤自身自分への励ましのような気がした。
そう自分は絶対に負けないと、自分で自分に言い聞かせているのだ。
「潤さん……」
「尚紀が心配するようなことにはならないから、健やかに生活してほしい」
すると、尚紀も落ち着いてきたようでわかりましたと言った。
「僕は潤さんと颯真先生を信じています」
でも、と繋げる。
「もし、お二人に何かあったら……。マスコミの人たちを僕は許しません」
尚紀がそのように言い切る。
「潤さんと颯真先生は僕にとって恩人です。お二人がいなかったら今の幸せはなかった。誰よりも幸せになってほしい人です。
もしお二人に敵が現れたら、僕は躊躇いなく助けに行きますから……。
尚紀の言葉は本気だった。彼は心配していると同時に怒りを感じているのだと潤は理解した。
「ありがとう。心強いよ。でも大事な尚紀を危険な目には遭わせたくないから、頑張って穏便に済むような方法を考える」
潤の言葉に尚紀も頷いた様子。
「くれぐれも無理しないでくださいね」
そう何度も繰り返し言われて、尚紀と通話を終了させた。
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