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episode 1

今から、『運命の相手』とのご対面だ。 速川真人は緊張に肩を強ばらせながら、その扉に手をかけた。 『T相互適合システム』という名の国の制度がある。『運命の相手』を効率的に探し出す為に開発されたもので、世界の先進国のアルファとオメガの遺伝子情報が登録されている。 それを日本政府が実施し始めたのが3年前。導入してからまだ日が浅く、たまに不具合もあるようだが、その成果は高いらしい。 18歳となってすぐ、国から真人へ書類が届いた。記載されていたのは番候補が見付かった事と、相手のプロフィール。そして、 ―――適合率98%。 その高い数値は、間違いなく相手が自分の運命と決まったようなものだ。 カチャ―――と、扉を開けた中には、二人の人物がいた。一人は白衣を着ているから、医者で間違いない。 ならば、残りの人物が『運命の相手』だ。 書類によると、この春から日本在住のアメリカ人で、名前はエルドレッド·クラーク。真人より11も上の29歳。大学の教授で、色んな賞とかとっている偉い人のようだ。頭が良く、身長も高く、見目麗しいアルファの中のアルファ。 「ぅっ、―――ぁ?」 室内には足を踏み入れた途端に、カッ―――と、暴力的なまでの熱に襲われ、真人はよろめいた。背中がドアに当たる。 抑制剤はちゃんと飲んできた。ヒートもまだの筈だ。なのに、体が反応するということは、やはり彼が。 ―――運命。 なにより、この香り。 甘くて、甘くて、酔いそう。息苦しいくらいなのに、体はまだ足りないと、肺一杯に吸い込みたくなる。 はっ、はっ、と動物のように息を乱しながら、真人はズルズルとしゃがみ込んだ。とても立っていられない。 「速川真人さん、エルドレッド·クラークさん。苦しいでしょうが、そのまま聞いてもらえますか?」 医師の言葉に、椅子に座っているエルドレッドを見ようと、真人は視線を上げた。涙でぼやけた目でエルドレッドの姿を捉えると、キツそうに眉を寄せて、口元を手で覆っていた。 「おふた方は運命の番と確認できました。国としては番の契約をして頂きたいのですが、最終的には個人の意志によります。今日のような面会を何度か重ねる方や、個人的にお二人で何度か会って決められる方。決まりはありません。尚、今のように激しい反応は次回以降かなり軽減されますので、落ち着いて話もできると思います。」 ―――良かった。 顔を会わせる度にヒートのような反応をしてしまえば、録な会話もできないと思っていたが、軽減すると分かって安心した。 『運命』だから、完全になくなる訳ではないだろうが、ちゃんとコミュニケーションができるようになるらしい。 「今後、どうするのかを、各々からお聞きしたいのですが。先に、アルファであるエルドレッド·クラークさんから。いかがしますか?」 みっともないと蔑まれなければいいが―――と、不安になる。さっきからずっと発情して震えているだけだ。 今日、エルドレッドに拒否されたら、真人はずっと一人で生きなければならないかもしれない。その孤独を想像して、恐ろしさに体が震えた。 「彼に任せます。」 エルドレッドの答えに、真人は聞き違いかと目を見張った。 任せる―――とは、どういう意味だ。 真人の選択を尊重してくれているのか、はたまた興味がなく投げやりなのか。何となく、その不機嫌そうな顔は、後者な気がする。 医師も戸惑ったように、エルドレッドと真人の顔を順に見ている。恐らく、普通はアルファに主導権があり、オメガの意志など後付けのようなものでしかない筈。 「そうなるとですね。速川さんが今ここで、番になると決めた場合、すぐに正式に契約書を提出しなければならないのですが。」 「ええ、私はそれで構いません。」 エルドレッドの即答に、医師が書類に視線を落としてから、今度は真人を見る。 「では、速川さんはどうされたいですか?」 「オレは―――」 真人は震える唇で答えた。

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