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episode 5

一目惚れだった。 初めて真人と目が合った瞬間、エルドレッドの頭の中には、天使が舞い降り、美しい祝福の鐘が鳴り響いた。 凛として慎ましやかな佇まい、魔法を宿したような黒い瞳、日本の花のように愛らしい桃色の唇、その唇から零れる甘い声。全てに魅了され、一瞬で深く激しく恋をした。 今まで誰を愛する事がなかったのは、真人に出会う『運命』だったからだと、そう理解した。 エルドレッドの頭の中で、リンゴンリンゴンとうるさいほどに鐘が鳴っていても、相手も同じ気持ちな訳はない。真人へ全てを任せる事にし、それによって同棲が始まった。 指先ひとつ触れる事が出来ず、壊れやすい飴細工のように、大事に大事にしてきたのに―――。 「ぁあっ、えるど、れっ、さん、んぁっ、」 「はっ、―――真人。」 エルドレッドが学生の出来の悪い論文とにらめっこしていると、突然、本能が警笛を鳴らした。嫌な予感などという曖昧なものでなく、『運命』の元へ行かねば―――と、それしか考えられなくなる。 『運命の相手』の危機を感じ取れる能力があるらしいと、どこかで聞いたことはあったが、本当だとは思っていなかった。 本能のまま高校へ駆け付けて見れば、真人が縛られ組み敷かれており、エルドレッドの理性は弾け飛んだ。 怒りに任せ暴漢を殴り付け、真人を拐うようにマンションに連れ帰り、自室のベッドの上で襲いかかっている。 「ぁああっ!ふかぃっ、くるしっ、」 駄目だ―――と、頭のどこかで何度も思ったが、止まる事はできなかった。触れてしまえば体は勝手に動き―――、今、真人の小さな孔に、エルドレッドの狂暴なソレを突き立てている。 真人の中は狭く熱く、そして溶けていた。 「える、えるど、れっ―――んんっ、んっ」 エルドレッドは体の動きを止めて、甘い吐息を溢す唇に舌を差し込んで蹂躙すると、真人が苦しそうに鼻にかかった声を漏らす。 満足するまで貪り唇を離すと、真人の顔は蜂蜜のようにトロトロになっていた。ポロリと涙がひとつ零れる。 「エルドと呼んでくれ。」 「え、るど―――さん?」 夢を見ているようなほやんとした顔で、真人が舌足らずに言う。 その響きの愛らしさに、エルドレッドの恋心は溢れて、とうとう零れてしまった。 「真人、キミが好きだ。」 想い描いていた手順は滅茶苦茶だ。 ちゃんと好きだと伝えて、真人が了承してくれたら正式に届け出をし、まずはキスから始めよう―――と、そんな事を考えていた。なのに、何もかもすっ飛ばして、欲望をぶつけてしまっている。 ―――嫌われたくない。好きになって欲しい。 伝わっているのか、いないのか。真人はぼうっとエルドレッドを見上げて固まっている。 伝わりますように―――と、真人の手を取り、その手の甲に懇願するように唇を落とす。 「好きだ。愛してる。」 そう言うと、真人はぴくっと体を震わせて、元から大きな目を零れそうなほど見開いた。伝わった事、伝えられた事に安堵する。 エルドレッドが取った手をきゅっと握ると、真人が目を潤ませて、小さな唇を戦慄かせた。 「―――うれしい。」 幸せがそこに集まっているような顔で、真人が笑う。その表情に息が止まりそうになった。 思春期の初恋のように、カァッと発熱したように頬が熱くなる。 仕方がない―――とも思う。 だって、これが初恋なのだから。 「オレも、あなたが好きです。」 真人の言葉と共に、辺りに星が煌めく。 世界が春のように明るくて、エルドレッドは眩しさに目を細めたのだった。 End.

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