1 / 3

饐えた身もろとも

 湿度の高い夏にすっかりやられたようすで、枡田ハジメが合鍵を使用して入室してきた。長身痩躯なその色白男は、亡霊のように音もなく現れて無言で居間のソファに沈んだ。 「外暑かったろ」  家主である山田マコトがたずねると、覇気の無い声が返ってきた。 「暑いなんてもんじゃない……」  ボトルの天然水を片手にソファに近寄るマコト。火照った頬にふれると、熱伝導によりマコトの手の甲までもがあたたまった。以前風邪をひいたときに買った冷えピタを余らせていたことを思い出し、台所へ戻る。  冷蔵庫を漁っていると、嗅ぎ慣れた匂いと共に背後に温もりを感じた。青い血管の透けた腕がマコトの首にまわされる。冷蔵庫を閉めて振り向くと、かけたてのエッジパーマが顎に擦れた。会うからかけ直したのかな。マコトが自惚れたことを考えながら撫でると、ハジメはその手を自らの胸に持っていき、ねだってきた。いつになく甘えた態度だ。 「暑さで頭いかれた?」 「かもしんない」 「嫌がるじゃん」 「いいから」  肌着のうえから指の腹で軽く撫でただけで、それはすぐに浮き上がった。指でくすぐると鼻にかけた甘い声で鳴くので、たまらず肌着を捲ると、その摩擦でもあえいだ。 晒した乳輪をなぞって焦らす。あかく膨れている乳頭をつまみあげると、触れと自ら言っておきながら懸命に押しのけようとする。マコトの攻める手にしがみついているものの、それをふりほどく力は出ないようだった。強めに親指でさすられると頭をふってもだえ、爪で切り刻まれると顎をがたがたいわせて震え、防戦一方だ。 「っは、っは、きづい、たのむ、」 「怖がんなって、我慢するからしんどくなる」  マコトが諭すと、その言葉をきいて安心したのかこわばっていたからだの力が抜け落ちた。マコトはその隙にハジメの肌着を捲り、直に乳首をつねる。余裕のない悲鳴があがる。肌着の裾を口で咥えさせ、乳首を舐める。ふっ、ふっ、と、鼻息を粗くする。下着をずらして、自らも脱ぎ、すでに反ったものを同じような状態の相手にこすりつけた。密着度が高まり、たまらない、といった感じで見上げてくるハジメに、「きもちい?」と、訊くと、こくりとうなずく。清々しいくらいに素直な恋人のようすに、マコトは自分の内にこれまでにない嗜虐心がわきあがるのを感じた。  乱雑に冷蔵庫に押しつけられたハジメもまた、マコトのあつも以上の強引さに興奮を覚えていた。片足を持ち上げられ、いざ挿れるとなったときに、バックがいい、と、ねだった。向き合ってするより、犯されている感じがして好きだった。マコトはハジメを後ろに向かせて、すげえ、と小さくつぶやく声をききながら挿入する。数分足らずで早くも、いく、いく、と言い始めた。マコトは、はえーよ、と、思いながらも尻をふりぐりぐり攻撃されたので腰を止めるに止められない。乳首を引っかくと内壁が吸い付いた。再び、激しく穿つ。 「いく?」息切れの合間にマコトが訊くと、頭を振りながら「ちがう」と、ハジメが言う。ちがう、ちがう、と自分に言い聞かせるように繰り返し、絶頂の波に耐えている。既に腰がくだけてひとりの力では立っていられなくなっているので、一旦抜いて寝室まで担ぐ。  唇を啄みながら寝台へ押し倒して、両ひざを胸に当たるほど折り曲げる。やや強引な挿入になり、悲鳴があがった。マコトが力づよく腰を引き寄せると、ハジメは半分怯えたような、それでいて物欲しそうな表情でマコトの腕にしがみついた。それからは、互いに無心で腰をふった。ハジメは赤い顔でびたん、びたん、と、腹に当たる自分のものをみながら、必死に唸る。時折声が裏返ってかすれるのが艶っぽい。扇情されたマコトが舌をからめながら深いところを突き動かす。んふっ、んふっ、と、ハジメは苦しげにむせて、口が離れると一気に声があふれ出る。 「アーいくいくそっこ、きもちっ、いくあっやぁっ…… 」  あーすげえ締まる…… 。マコトは、言葉にならない絶頂に天を仰いだ。

ともだちにシェアしよう!