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筧 義松④
「元気出せよ。確かにキミの息子を見たら大抵の女はガッカリするだろうけど、ここに来たら俺が責任もって気持ち良くしてやるから、なっ?」
「……それ、慰めてます?」
もしそれで慰めてるつもりなら最悪だ。全然慰めになっていない。
「いや別に? 事実を述べた上で営業してる」
――ほんとに、この男。
「あー、あんたが早漏過ぎるから、まだ30分も残ってるよ」
いつの間にタイマーをセットしてあったのか。
サイドテーブルの上のキッチンタイマーに手を伸ばし、時間を確認したアオイがフンと鼻で笑った。
悪かったな、と思いつつ義松 は純粋な疑問を口にした。
「50分も、皆さん何するんですか?」
義松が早漏が過ぎることを差し引いたって、一発ヌくだけに50分もかからない。
「んーおしゃべりとか? この店って風俗店のサービスとしては中途半端だろ。皆、癒しを求めてやってくんの。い・や・し。ほら俺って癒し系でしょ?」
――自分で言うな。
「ちょっと、素直だね、キミ。思ってること全部顔に出てるよ?」
思ったことが露骨に顔に出ていたんだろう。
しかしアオイは気にすることなく無邪気に笑っている。
「だって……最初の色っぽい美人キャラはどこに行ったんですか」
「あれはよそ行き。接客用じゃん? 他にも色々あるよ、キャピ系弟キャラとか? そこはお客様のご要望に合わせますよ。曲がりなりにも、お金もらってるプロですし?」
「俺も一応客ですけど?」
「これが素ね? なんかキミ面白いし気に入っちゃった! 歳も近そうだし楽なんだもん。……あ、あと30分間どうする? キミ、若いしもう一回くらいイけそーだよね?」
「えっ、二回もする人いるんですか?」
「いるよぉ~。最初から延長一時間で予約して二回も、三回もする人とかも」
「す、すご……」
「キミも若いんだからイけるって」
そう言うなり、アオイは義松の上に乗っかってきた。
「Cコースってさ、上半身ヌードありなの。つっても、ゲイじゃないキミには男の乳首なんて興味ないかもしんないけど?」
アオイはおもむろにシャツを頭から脱ぐと、バランスの取れた上半身を晒す。思わず息を飲んだ義松の反応に、彼に跨ったアオイは満足げに唇の端を上げた。
男の裸なんて当然興味はなかった。
しかし、目の前に晒されたアオイの体に、義松はうっかり見惚れてしまった。
細いけど、華奢じゃない。
綺麗に浮き出た鎖骨。厚みはないが、全体的にほどよく筋肉がついていて、腹筋はうっすら割れている。
そして何より、美味しそうにぷっくりと赤く熟れた乳首が……。
「お、もう復活。さすがワカモノ。どう? 俺の裸、興奮した?」
アオイはそのしなやかな腕を義松の首に回すと、小首を傾げて至近距離で顔を覗き込んでくる。
この男は小悪魔か、そうじゃなければ……いや、やっぱり小悪魔だ。
ドクン、と身体中の血が騒ぎ、再び兆しはじめた小さなペニスも、わずかながら更に体積を増す。
――興奮した。
返事の代わりに、アオイの胸に吸い寄せられるように唇を寄せれば、
「おっと、こっちは別料金」
するりと首に回っていた腕が離れ、体を反らして避けられる。
義松はきゅっと唇を結んだ。もう、頭の中は”そう”する以外の選択肢はない。
「……いくらですか?」
「1000円也 」
義松の反応なんてお見通しだったのだろう、アオイはしたり顔でそう言った。
アオイを乗っからせたまま、義松は腕を伸ばしてカゴの中のジーンズに手を伸ばす。
尻ポケットの財布を取り出し、中を確認したが生憎と壱万円札と五千円札しかない。
義松は迷わず五千円札を取り出し、アオイに握らせた。
「おつり、ないけど?」
「いいです」
義松がそう答えると、分かっていたくせに。
白々しく尋ねたあと、アオイはにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「キミ、サイコーだね」
――嗚呼、もう我慢できない。
次の瞬間、義松はその胸にかぶりついた。
その腰をしっかりと抱き、さっきのように避けられたりしないように。
突然かぶりつかれて驚いたアオイが、ハッと息をのむ音が聞こえる。
「ふ、がっつきすぎだ。激しいっての……そんなに俺の乳首美味しい? んっ……」
――美味しい。
返事の代わりにじゅっと強く乳首を吸うと、吐息混じりの悩ましい声が聞こえた。アオイも感じているのだろうか、乳首を吸われて。
そういえば、オプションには「おっぱい舐め」なるものがあったことを義松は今更ながらに思い出す。
受付の男に説明を聞いたときは、何が楽しくて男の胸を舐めるために金を払わねばなんのだ、男の乳首を舐めて喜ぶ男がどこにいるのだ、と疑問に思ったものだが……。
――ここにいたよ。
義松は夢中になって、アオイの胸にしゃぶりついた。
つんと尖った乳首をコロコロと舌先で転がし、ジュッと音を立てて吸い上げる。
反対の胸に掌を這わせると、そちらも既につんと尖っており、義松はその突起を指の腹で押し潰すようにこね回した。
「ふ……んっ……」
ややアオイの息も上がっていることに気づき、益々興奮する。
れろれろ、ちゅうちゅうと左右の胸を平等に交互に可愛がる。
唾液でてらてらと濡れたアオイの乳首がようやく解放された頃には、半分皮に覆われている残念な義松の息子も、再び限界まで張り詰めていた。
その先端からは、白く濁った精液混じりの先走りがとろとろと溢れている。
義松に跨るアオイの体にも、変化が見られた。アオイの履いている面積の少ないショートパンツの、薄い柔らかな生地が明らかに押し上げられている。
「アオイさんも、勃ってる……?」
思わずそこに手を伸ばそうとすると、ぴしゃりと叩かれた。
「触んな」
「でも……」
「俺のことはいーの。それより、こ・こ。……苦しそうだけど?」
ぬるぬるになったペニスを遠慮のかけらもなくぎゅむと握られた。
思わず「あッ!」と声が出て、みっともないくらい大袈裟に肩が跳ねる。握られただけで達してしまいそうなほどアオイの掌が気持ちイイ。
「あ……アオイさん……イきたい……」
「いいよ、気持ちよーくしてあげるから」
ちゅこちゅこと音を立てて、アオイは義松のペニスを扱きだした。
「あっ、あっ、あ……イイッ! アオイさん……」
アオイはにやりと笑うと、その綺麗な指先で益々激しく義松を扱き、そして――。
「あッ!?」
突然ぎゅっと乳首を抓られ、再び義松の肩が跳ねた。
「あ、そんなとこ……やめてくださ……っ」
「やめてほし? でも腰、ビクビク跳ねてるけど。それにほら……ここも」
弄られた義松の乳首は、先ほど吸い尽くしたアオイの乳首のように、つんと上を向いている。
「ほら、反対側も」
反対の乳首もぎゅっと抓られ、義松の口からは「はぁんッ」と感じているに他ならない色っぽい声が漏れた。
「おっ、感度良好。早漏なだけあるね、開発し甲斐がありそう」
アオイは楽しそうに笑いペニスを扱く手を休めることなく、先ほどの仕返しかと思うほど執拗に義松の乳首を攻め立てた。
「あ、だめ……また出ちゃ……!」
言うが早いか義松は二度目の吐精をした。
「さっすが~。二度目なのに、こーんなに飛ばして元気いっぱいじゃん」
アオイは義松の頬まで飛んだ精液を、指先で塗り広げながら揶揄するように笑う。
そして肩で息をする義松にまるで悪魔のように囁いたのだ。
「ど? オンナとヤるより、オンナにシてもらうより、ずっとイイだろ?」
そのとき、見計らったかのようにタイマーが鳴った。
完璧な時間配分だ。
アオイは義松に跨ったまま、サイドテーブルに手を伸ばした。
ピピピピピピ、とやかましいタイマーを止め、ティッシュを箱ごと手渡してくる。
「今の、五分前のタイマー。ちゃんと着替えの時間はとってあるから慌てなくていいよ?」
ウエットティッシュも箱ごと義松のそばに置くと、アオイは義松の膝から降りて脱ぎ捨ててあったTシャツを頭から被ってしまった。
ーーあの美味しそうな乳首が隠れてしまう。嗚呼……。
すっぽりとTシャツを被ったアオイが「ねえ」と、義松を見た。
義松はギクリとして、名残惜しそうに乳首を眺めていたとは悟られないように、努めて平静を装う。
「はっ、はい?」
「名刺、書いても大丈夫だよね? 見咎めるような奥さんとか彼女とか、いないもんね?」
いないと分かっていながらわざわざ聞いてくるあたり、やはりこの男はいい性格をしている。
「分かってるなら聞かないで下さいよ」
義松が拗ねたように返せば「いや、念のため確認?」とカラカラと笑う。
その笑顔があまりにも魅力的なので、義松はパッと目を逸らすと、自身のペニスを拭く作業に没頭するふりをした。
義松がすっかり帰る支度を終えると、アオイは「ありがとう。楽しかったよ」とハグを求めてきた。それがセオリーなのだろうか。
胸ポケットに今書いたばかりの名刺を入れ、耳元で囁いた。
「恥ずかしいから、店出たあとに読んで?」
残り五分を知らせるタイマーも鳴り、帰りは入室したときと同じように、アオイにカーテンの手前まで見送られた。
ひとたびカーテンの向こう側に出てしまえば、そこは現実世界である。
「またね、お兄さん。きっとまた、俺に会いたくなるはずだから」
……それは、呪いの言葉か何かだろうか。
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