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アオイ⑤

 エルミタージュでの、仕事の流れはこうだ。  キャストは準備ができ次第「準備できました~」と受付にコールをする。ボーイはここでコース内容を告げる。 「指名のCコース延長30分、③番入ります」  ――ってな具合に。  入口までお客様をお迎えに行き、お部屋へとご案内。  コース終了5分前にタイマーをセットし、コーススタート。  帰りも同様、コースが終了すれば「お客様お帰りです」と、受付にお帰りコールをする。他のお客様の出入りがあるときは、鉢合わせしないように「ちょっと待ってねー」と言われたりもする。問題ないときは「はーい、お疲れさまでした」予約が続く場合は「続きまーす」だ。  そしてお客様を出口までお見送りして、おいまい。  お帰りコールをした際、加藤に「続きま~す」と告げられたアオイは客を見送ったついでに、控室を覗いた。  控室にはちょうど空き時間なのか、シンとスバルの二人が食事中だった。  スバルは現役体育大生のソフトマッチョの爽やかなイケメンで、この店(エルミタージュ)の他にスポーツジムでインストラクターのバイトをしているらしい。……と、聞いたとき、アオイはものすごく納得した。それくらい、均衡の取れた綺麗な身体をしている。  それなりの年齢の、それなりの体型のおじさんの多いこの店の客からしたら、彼の身体はさぞ眩しいだろう。  シンは、出勤途中一緒に入ったコンビニで買った、新発売のメープルメロンパンを齧っていた。 「ひとくち」  予約続きでなかなか食事するタイミングを掴めなかったアオイは空腹で、あーんと口を開けてシンに強請った。シンは無言でアオイの口元にパンを差し出す。 「ほんと2人、仲良いよね」  とスバルが苦笑する。  アオイはにこにこしながらパンに大口で齧りついた。 「んっ?」  もぐもぐしながらモニターを見るなり、アオイは目を瞠る。 「(かけい)クンじゃん」  口の中のメロンパンを咀嚼し飲み込むと、一歩モニターに近づいた。  近づいたところで、白黒のお粗末なカメラの映像がハッキリ映るわけでもないが、そうせずにはいられなかった。 「ダレソレ」  とはシンのセリフ。 「ほら、先月のフリーの新規客」 「あ~」  義松(よしまつ)のことは、彼がこの店に初めて来た日、帰りに(うらら)と三人で〝一行〟に寄ったときに話をした。  〝一行〟は先日、義松と二人で行ったアオイ行きつけのラーメン屋だ。  「若くてイケメンかも」とテンションが上がっていたアオイの期待外れを嗤う気満々だった二人は、予想通りの「若くてイケメン」に面白くなさそうな顔を見せたことは、一カ月以上前のこととは言えまだ記憶に新しい。  義松のことは〝ある意味〟期待外れだったわけだが、もちろん、彼が仮性包茎で、短小、早漏なことは秘密にしておいた。  また彼が傷ついて風俗や女性不信どころか、男性不信にまでなっては困る。 「あの結構イケメンだったっていうヤツね」 「そうそう」 「ふーん、なに、常連になったの?」 「って言ってもまだ3回目だけどね」  楽し気なアオイに、シンは「なんでそんな嬉しそうなの」と不満そうだ。 「だってあの子、な~んか可愛いんだもん。気に入っちゃってさ。んじゃ準備するから、またね。パン、ごっそさん~」  落ち着かない様子で、待合室でそわそわしている義松の姿を思い出し、アオイはニヤニヤが止まらない。  前回はひと月開けてきたのに、今日はどうしたのだろう。もともと多くない出勤だったが、こんなに間隔をつめて来るなんて。よほどアオイに会いたかったのだろうか。もしそうだったら嬉しい。  不意打ちで頬にキスをしたときの、義松の間抜けな顔を思い出し、アオイは笑みを深めた。

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