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筧 義松Ⅱ②
「あっ、あっ、あっ……気持ちいいッ、アオイさん……気持ち……!」
ひとしきりアオイの乳首を堪能した後、義松はアオイに促されるままに全裸になり、ベッドに横になった。
そしてアオイはその上に跨り、義松のペニスを扱いている。
少々乱暴に、被ったままの皮をぐいぐいと剥くと、そこはローションが不要なほどトロトロに濡れている。しかしアオイは「たまには使ってみようよ」と満面の笑みを浮かべ、とろーりとローションをたっぷり垂らしたのだ。
「どう? 初ローションの感想は」
「ああッ、やば……こんなの、すぐイっちゃ……あッ! ダメ! 先っぽダメ……ああッ!」
「うん、イく? いいよ、イっても」
「あ、あっ、出る……ッ、アオイさん、出るッ!」
義松の腰はひとりでに揺れた。
腰をくねらせながら快感に悶える義松の顔をまじまじと見つめ、アオイは嬉しそうに微笑む。
「すっご~く気持ちよさそうな顔。嬉しいな~。ねえねえ、キモチー? 気持ちイイよね、もっとよがっていいよ?」
「あぁ、すげー……気持ちイイッ……血管切れそ……ッ、あ、あぁッ!」
自身に跨るアオイの腰を掴み、義松はガクガクと腰を振った。まるで騎乗位で挿入したアオイを、下から突き上げるかのような激しい腰の動きだ。
アオイは笑みを深め、義松を追いつめるため、手の動きをさらに早める。
「ああああッ、ほんと、出ちゃう、出るッ……出るッ!」
ビュッ、ビュビュッ、と義松のペニスから勢いよく精子が飛び出た。
「あ……出ちゃったッ……」
まるで一つの別の生き物のように伸縮を繰り返すペニスは、鈴口からトロトロと精子を吐き出し続ける。
「すご。筧クン、まだ出てるよ……」
アオイはなぜか嬉しそうに、陰嚢をきゅっと優しく握ると最後の一滴まで絞り出した。
「今日もいっぱい出たね。最初より、ちょっと我慢強くなった?」
初めての日だったら、ローションつけた瞬間にイっちゃってたかもね? などとからかう口調はやっぱり底意地が悪い。
濡れた手を拭ったアオイは、ベッドの上でぐったりとしている義松を見下ろし、からからと笑う。残念ながら言い返せない。確かにあの日は恐ろしくスピーディな展開であった。
なんとか短小・包茎・早漏という不名誉な三冠から脱したいところだが、短小と包茎は今更どうしようもないので、早漏部門で頑張るしかない。
ところが「でも俺、早漏って嫌いじゃないよ」と、アオイは義松の考えを見透かすように蠱惑的な笑みを見せた。
「ええっ? あれだけ人のこと馬鹿にしておいて……?」
「え~? 俺、馬鹿になんてしたっけ?」
「しましたよ! ただでさえ仮性包茎を気にしてるっていうのに……おまけに早漏って……目も当てらんないって……言いました……」
思い出しても胸がつまる。切ない。切なすぎる。
無礼なまでのあけすけな物言いも含め、アオイに惹かれているのは事実だ。しかし傷つくものは傷つく。
当のアオイは少しも反省していない様子で「そういえば言ったかも~」とからから笑う。
「だって女の子の立場で考えてみなさいよ。ちっさいちんちんでイイとこまで届かないもどかしい思いを強いられた上に、正真正銘の三こすり半って!」
返す言葉もない。
実際問題、この義松の慎ましいサイズのペニスでは、女の子をナカでイかせてあげられないだろう。
「でも俺にとってそれってどうでもいい話だし? あんたの彼女がガッカリしようが、俺はあんたが俺の手で気持ちよくなってくれるのが嬉しいからさ。早漏って、我慢できないほど気持ちイイってことじゃん?」
だから、俺、あんたの早漏は嫌いじゃないんだ、とアオイはにっこり笑った。
……きゅん。
と義松の胸の奥が音を立てた。
すると欲求に忠実な義松の小さなペニスが、みるみるうちに兆しはじめる。
アオイはこの変化に目ざとく気付き「2回目、する?」と悪戯っぽく笑った。
「ん……します。でもちょっと、休憩しましょう……」
横になったまま、義松は両腕を広げた。こっちにおいで、とポーズで示す。
アオイはくすっと笑うと、思いの外素直にその腕の中におさまった。まるで恋人の様に。
あまりにも自然な様子に、義松は嬉しくなって「ふふっ」と笑った。アオイをぎゅっと抱き締める。
――あ~幸せ~。
脚を絡ませ合い、アオイの髪を梳き、体のあちこちに触れる(もちろん、下半身はタッチ厳禁だが)。時々見つめ合ったりしながら、いちゃいちゃと一休みの時間も楽しんだ後、アオイの掌の中で2度目のフィニッシュを迎えた。
ぶるぶると体を震わせすべての精子を出し切ると、義松は再びぎゅっとアオイを抱き締めた。
「あー……すっげーよかったです、アオイさん」
「そりゃよかった、頑張った甲斐があるよ。俺は腹減ってぶっ倒れそうだ」
アオイは精子のついた手をティッシュで拭ったあと、ぽんぽんとおざなりに義松の頭を撫でた。そんなことですら嬉しい。
「あ、あの、じゃあ今日もラーメン食べに行きます……?」
「え」
思わずそんな誘いの言葉が口をついたが、アオイの反応に義松は後悔した。
「あ、すみません。調子乗りました。忘れてください」
咄嗟に謝った義松だが、返ってきた言葉は意外なものだった。「なんでだよ」と笑ったアオイは「いーよ、行こうよ」と何てことない様子で言った。
「え、あ、でも……い、いいんですか?」
「いいもなにも。自分から誘っといてなんだよ」
「だって――」
「自分から誘っといて照れてんの~? やだ~、可愛い~」
馬鹿にされるのはすでに慣れっこだが、義松は真っ赤になった。たしかに照れている。女の子をデートに誘うときだってこんなにも緊張したりしない。
「あそこのラーメン気に入った?」
気に入っているのはラーメンよりもアオイだが、ラーメンが旨かったのも本当だ。
「今日もこれで終わりだからさ、また店出たら適当に待っててよ。こないだと多分同じくらい」
義松は素直に頷いた。
こうして今日も義松は、2週間ぶりに訪れた〝らーめんダイニング一行〟で、アオイと向かい合って座っている。
「俺、焦がし醤油~」
「……餃子ははんぶんこしますか?」
「いいの?」
小首を傾げるアオイに、ああもう可愛すぎると悶絶しながら、そんな様子はおくびもださず「もちろん、いいですよ」と義松は努めて爽やかに見えるように微笑んだ。
今日は朝から霧雨が降ったりやんだり。
日中はかろうじて20℃を上回るものの、日が落ちれば20℃以下になる。霧雨に加えて風が強く吹けば、もはや震えるレベルで寒い。
今日のアオイの私服は、そんな秋の入り口、不安定な気候を考慮して暖かそうなパーカーを着ていた。肉厚な生地のフードがネックウォーマーみたいに首元をすっぽり覆っている。そこに顔を埋め、霧雨に濡れた額や頬をしきりに拭っている様子は猫のようだ。
義松は今回もスペシャル焦がし醤油を注文した。
注文を取ってくれたのもラーメンを運んでくれたのも、前回とは違う女の子だ。この子もずいぶんと可愛らしい子だ。
アルバイトを始めたばかりなのだろう。十代のすべすべの白い頬をやや緊張で強張らせ、それでも笑顔を振りまこうとするひたむきな姿勢がいじらしい。
そんな彼女をにこにこしながら眺めているアオイがなんとなく気に入らない。こっちを見て欲しくてチャーシューを何枚かアオイの丼に乗せてやると、ようやくアオイは義松だけを見て嬉しそうに笑った。
「あの、アオイさんはなんで俺を誘ってくれるんですか?」
ラーメンをずるずると嬉しそうにすすっていたアオイは、心底不思議そうな顔をした。もぐもぐしながら「今日誘ったのはあんただろ?」と言う。
「今日は、そうですけど……なんで、俺と飯行ってくれるんですか?」
「ラーメン食いたい気分だから? 焼肉食いたい気分のときに焼肉誘ってくれたら行くけど」
そういうことじゃない。
そういうことじゃなくて……。
しかしアオイがにやにやしているのに気づいて、義松はムッとした。質問の意図を分かっていて、わざとその言葉をくれないつもりだ。やはり底意地が悪い。
「言っただろ。あんたのこと気に入った、って。はい、これで満足?」
「満足……満足ですけど……」
その〝気に入った〟の詳細が、できれば知りたかった。
単にバイト終わりにラーメンを食べにいく飯友のような感覚なのか。
いや、自身の手でヌいてやった客の男と、その直後に楽しく飯を食いに行くなんて――お客相手に普通の友人関係のようなことが成立するのだろうか。
ひょっとして、アオイは少なからず義松のことを特別視してくれているのではないか――?
そんなわけないと分かっていても、悲しきかな、期待してしまうのが愚かな男心だ。
現に〝気に入った〟と言ってくれているわけだし(その真意は不明だが)嫌われていないことは確かだろう。
「なんだよ、不服そう」
「別に不服じゃないですよ」
「ふ~ん……餃子最後の一個もーらいっ」
「あっ! 俺の……」
むぐむぐと嬉しそうに餃子の最後の一つを頬張るアオイを見ていたら、色んなことがまあいいかという気がしてくる。さすが自称癒し系。
「アオイさん、今度は焼き肉に誘いますから、付き合ってくださいね」
「じゃあ肉の気分になっておく」
「約束ですよ?」
「ん」
アオイがどの程度本気で言っているのかも分からない。それでも実現する確証もない約束に、義松は胸をときめかせた。
まんまと踊らされてるな、と思う。
もう、取り返しのつかない深みまでハマっているではないか。
だが、それでもいい。
ペニスやタマもろとも、コロコロコロコロ……。
いいように転がされている自覚はある。だがそれも、アオイにだったら本望だ。
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