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三度目は落ち合うとすぐにホテルへ行った。
雨が酷かったので仕方なく、だ。僕の本意ではない。
外は冷え込んでいて、屋外で三十分ほど彼を待っていた僕はすっかり唇を青くしてしまっていた。じっとりと湿気を吸った衣服をハンガーにかけ、僕たちは一緒にシャワーを浴びた。
会ったときから、なんとなく元気がないなと思っていたのだ。
熱いシャワーを浴びながらキスだけ数回して、何でもない顔をして身体を洗った。がっついていると思われたくない一心で。
バスローブを纏ってシャワールームを出ると、彼がぽつりと口を開いた。
「今週末なんだ。親友の結婚式」
その準備の関係で待ち合わせに遅れてしまったのだと、何度目かの謝罪をされる。
並んでベッドに腰掛けた彼は、たぶん、言わずにいられなかったのだろう。濡れたままの髪の毛先を指で弄びながら、自嘲気味に笑っていた。
「自分はこんなに嫌な奴だったのか、って、へこんでる」
「嫌な奴?」
「俺ね、てるてる坊主、よく作るんだ」
彼の唇から突然飛び出したのは、ずいぶん久しく聞かない言葉だった。懐かしい響きのそれは、性行為をするための部屋にあまりにも不似合いだ。そんなことは気にも留めずに彼は続ける。
「担当の式の日が雨予報だったりするとね。新郎新婦の控え室にぶら下げておくと、結構喜んでくれるんだ。しかもなかなか効くんだよ、俺のてるてる坊主」
晴れ男なんだ、とくたびれたような顔で軽く笑う。
「プランナーの俺は、今週末も作ろう、って思ってるんだけど」
いつもはすらりと姿勢の良い彼が、叱られた子供のように背を丸めている。両手は膝の上でバスローブの生地を所在なさげに握ったり離したりしていた。
「本当の俺は……大雨だったらいいのに、とか、思っちゃってる。最低だ」
そう言った彼の瞳から、前触れなく透明な雫がぽろりと零れ落ちた。
滑らかな頬を滑り落ちていくそれに、僕は目を奪われる。
「こんな心の汚れた奴に想われてるなんて、あいつが可哀想だ。新婦さんも。何も知らないで日曜日を楽しみにしてる」
ぽろ、ぽろ、と同じ速度でいくつも雫が伝っていった。彼は静かな呼吸のリズムを変えることなく、ただ宝石のような涙を流していた。
「最低だ、俺」と、ほとんど吐息だけの声でもう一度呟いた彼を、僕は両腕で抱き寄せた。
薄い唇をあやすように何度か啄む。
間近で見つめる、閉じた彼の瞼は震えていた。
胸がじくじく痛むのは、彼の気持ちに共鳴したから、というばかりではなくて。多分に嫉妬が含まれていた。
彼は泣いた顔も綺麗だった。でも僕は、彼にそんなふうに泣いてはほしくないのだ。
だから頬を包んで囁く。
「僕以外のこと考えないでください。嫌です」
濡れた瞳が至近距離で瞬いた。唇が緩やかな弧を描き、頬を挟みこんだ僕の手に、細い指先が触れる。
「……そういうときはね、伊織くん。忘れさせてあげる、って言うんだよ」
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