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第10話

「童話作家。なればいいじゃん」  キリサメのその一言が、夢と現実の鎖に繋がれていたぼくを解放した。  壊したくない夢を手にしたまま、現実の世界で生きていてもいいんだ、って言われたような気がした。  キリサメはぼくに夢をくれた。  キリサメはぼくに、勇気をくれた。  キリサメはぼくに……沢山の感情を抱かせた。  じゃあ、ぼくは?  ぼくは彼に、なにをあげる? 「雨、早く降らないかなぁ」  放課後、ぼくは性懲りもなく呟く。  ――どうしてこんなにも、会いたい……  魔法が使えるのなら、雨を降らせます。永遠に止むことのない、明けることのない梅雨の霧雨を降らせます。  それから……りゅーちゃんが教室の扉を開けて、飛び込んできて、妄想、打ち切り。 「サイくん。雨の精霊さんが来たわよ」 「りゅーちゃん!」  クラスメイトたちがざわめく。雨の精霊? 龍前さん何言ってるの? サイくんがついに洗脳しちゃったんじゃない? エトセトラエトセトラ。  でも、そんな雑音気にしない。  りゅーちゃんは窓の外を指さす。校門の前に一輪の傘の花。どうして? 雨はまだ降っていないのに……  ぼくは階段を駆け降りる。もどかしい、翼が背中から生えてくれればいいのに!  走りだした途端、思わず涙が零れた。  そして魔法が解ける。舞踏会で着ていた黒い燕尾服は学校の近所の男子高(りゅーちゃんの彼氏さんが通ってたんだ!)の制服に、魔法の杖はそれはどこにでも売っている白いビニール傘に、そして……キリサメは、紛れもない、人間に――戻る! 「キリサメ!」  白い傘が風に舞う。ぼくは彼に思いっきり抱きついて、夢の続きを歌う。 「魔法は、解けたんだね?」  彼は、ぼくの髪をそっと撫で、囁く。 「雨の精霊は、恋をして人間になるんだ」  最後の呪文は、ぼくが言おうとする前に耳元で囁かれた。 「――好きだ」  晴れた日に降る雨。キツネの嫁入りみたいな街の風景。でも、天から雨粒は降ってなくて。それなのに、目の前は真っ白で。 「雨、降ってないよね?」 「降ってるよ」 「嘘」  ぼくが弱々しく呟けば、彼の指が頬を軽くなぞる。 「サイくんの、ほっぺたに」  それは雨じゃなくて涙だよ。  だけど反論、できなくて。 「……雨の精だなんて、なんで、言っちゃったんだろうなぁ」 「キリサメ?」 「きっと、サイくんが、夢を見せてくれたからで……夢を見ていたのは、僕の方。君が僕に梅雨の季節に降る夢をくれたから」 「それは、どんな夢?」  ぼくが問うと、恥ずかしそうに呟いた。  ――恋という名の、夢さ。 ~ fin. ~

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