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第9話

 気象予報士なんか嫌いだ。ぼくとハルサメの仲を裂くなんて、ヒドいよ。 「いや、気象予報士は悪くない」 「でも。責任転嫁しないとやってらんない」 「……あんたが振ったんでしょ」 「うん」  ぎらぎらと輝く太陽がザマアミロとぼくを射る。雨の精霊なんているわけないと。  全てわかっていることなのに。ぼくが雨の精霊に恋したわけじゃなくて、普通の男の人に恋した時点で。  りゅーちゃんはぷりぷり怒るぼくを見て「普通、泣かない?」と、困惑している。  涙なんか出ない。ただ、自分のしたこと、しくじったことに後悔して悔しいと怒っているだけ。  ……どうしてぼくは。最後まで彼の話を聞いてあげられなかったんだろう。どうして気持ちを伝えずに、逃げちゃったんだろう。 「まだ、間に合うかもしれないよ」  りゅーちゃんが明るい声で言う。 「え?」 「雨の日を待つだけなんて、つまらないでしょ?」  ぼくの驚いた顔を見て、楽しそうに、りゅーちゃんは胸を張る。 「まぁ、あたしに任せなさいって!」    * * *  諦めるのは早すぎる?  要するに、彼を雨の精だと認めなければいいんだ。ぼくが彼の前で、彼方は人間だと叫べば、魔法は解ける。  ぼくは開き直っていた。自分から気持ちを伝えるまで諦めてはいけない。  だってキリサメは、人間なのだから。 「サイくん、最近落ち着きがでてきたよね」 「ふわふわしてたのが、地に足がしっかり根づいたような感じがする」  昼休み、給食班の女子がぼくのことを見てうんうん頷いている。いつものようにからかうわけでもなく、真剣にぼくのことを見ている。 「こうしてみるとサイくんもいい男だよね、りゅーちゃんがいるから下手に手を出せないけど」 「うんうん、惚れるかも!」  勝手に騒がれているのに、ぼくは別段、悪い気もしない。 「サイくん、何があったの? ねぇ」  キリサメの顔が浮かぶ。彼のことを考えていると、顔が電気が灯ったかのようにパァっと赤くなる、彼の笑顔が今も、眼に焼きついて、離れない。男の人だけど、ドキドキする。  ――やっぱりこれは夢じゃない! 「そうか……やっぱりぼく、キリサメに恋してたんだ」  夢ばかり見ていた少年は、恋をしたことに気づいて、自分が大人に近づいていることを知る。 「霧雨? なんだそりゃ」  クラスメイトたちが呆気にとられている。ぼくの爆弾発言は、結局いつもの妄想ということで処理されそうだ。

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