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第10話

「……は? 本気で言ってんの?」  弟は俺よりも背が高く足が長い。立ち膝で俺を跨いでいるくせに、腕をぐいっと引っ張ってその膝の中で俺の体を回転させるような余裕がある。  俺の抵抗はすぐにひっくり返される。横を向こうが視線を逸らそうが、弟には何も通用しない、仰向けにされて弟が真上から睨みつける。  俺が弟に敵うことなんて、何もない。そんなことずっと前から知ってたはずで、そんな弟が俺はすごく好きだった。  頭も良くてかっこいい弟は俺の自慢だったじゃないか。 「処女は……っ売れね、んだろっ……?」  売れないって言ったのはお前じゃないか。それに俺が全部の原因だとも。それなら、お前の手で俺を少しでも売れるようにしろよ。  鋭い眼差しで睨みつけられる。伸ばした手を弟が掴んだ。繋ぐなんて生易しいものじゃなかったけれど、触れたところから弟の熱が流れ込む。それは火傷しそうなほど熱かった。 「くそっ……っざけんな! なんだよそれ……」 「だ、って……こんなっの知んねえ、し……」 「それが今から犯されるやつの言うことかよッ!」  怒鳴っているのに、弟の顔は怒りよりも耐えるような苦しそうな表情をしていて俺はまた何か間違えたのかと焦る。かっこよくも可愛くもない俺の相手、それも面倒な処女を相手にしてくれるだろう相手は弟以外にきっといない。もしもここで「無理」だって捨てられたら俺は本当にただのお荷物になってしまう。  ここで捨てられる訳にはいかない。  モテるだろう弟は慣れてるのかもしれないけれど、俺は童貞で処女だ。女の子とお付き合いどころか、いい雰囲気になったこともないんだから、怖くて当たり前だろう。  怖くても、相手が弟だから手を伸ばした。 「ああっ、見えないと怖い、からっ……お前だって、んっ、わかって、たい……っ」 「も、黙ってろ……っ!」 「ん──ッ! ん、あっあ、んっ、ぐ、あっ」  黙ってろと言われて口を閉じた瞬間弟の顔が近づいて、唇が塞がれた。開いちゃいけないと思って食いしばったのに、強引に舌がねじ込まれる。弟の舌は中に入り違っているけど、今口を開けたら声が我慢出来る自信がなかった。 「口開けろ、舌出せ」 「あ、でも……んっ、あ、やぁっ」 「ごちゃごちゃ言うな、無い頭で考えてんじゃねえ。兄さんはただ喘いでりゃいいんだよ」 「っあ、ひぁっ、あ、あっ」  口を開ければもう少しまともに息が出来るかと思ったのに、それは叶わなかった。言われた通りに舌を出せば、もっとだと引きずり出されてしゃぶられる。舌も歯も喉の奥まで舐め回されて、呼吸なんてろくにさせてもらえない。それなのに体はどんどんと熱くなって苦しさまで快感に変わっていく。歯を立てられただけで体が跳ねて、弟がそれを鼻で笑う。咥内を犯すようなキスで、下手くそな息継ぎで呼吸が余計に荒くなっていく。何かに縋りたくて頭上の枕を引き寄せたのに、弟に気付かれて指が解かれる。枕は床へとまぬけな音を立てて捨てられた。 ──兄さん、だって。  本当なら、そこで我に返って弟を止めるべきなんだろうけど俺はその一言に更に体を熱くさせた。汚らわしいんだろうな、弟からすりゃ。そりゃそうだ、この状況で兄さんって呼ばれて喜ぶ人間を兄貴だなんて、どの口が言うんだろう。  でも、弟が自分を見るのなら、こんな体いくらやったってちっとも惜しくない。

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