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第9話
下着はとうに脱がされ、ベッドから見えないところに投げ捨てられている。俺が逃げないように跨った弟もするすると服を脱ぎ床へ落としていく。柔らかいスウェットが形を変えていることに驚いた。
怒りと興奮を間違えるだなんて弟は本当に壊れてしまったんだろうか……でも、ほんの少しでも、俺なんかで興奮したんだと思ったら……汚らわしい俺の体は喜んでぐんと熱を上げる。
腕を引かれ起こされたと思ったら強引に体の向きを変えさせられる。うつ伏せにされ目の前が一面シーツになった。
犯すのにわざわざ顔を見る必要なんてないってことか……やっと正面から弟の顔が見られたと思って喜んだけれど、弟は俺の顔なんて見たくないらしい。ぎりぎりと心が痛んだけれど俺には何も言う権利はない。
それでも何も見えないのは怖い、振り返って弟じゃなかったらきっと俺は死んでしまうだろう。少しでも相手が弟だとわかっていたい。
「やっ、な、見えな……はっ、あ、んんっ、おまえ、の顔……んっ」
「……チッ」
俺からだけ顔が見らればいいのに。弟が自ら目隠しをしたがるとも思えない。どうしても顔が見えないのが不安で、必死に後ろへと腕を伸ばした。変な姿勢で顔をシーツに埋めたままで、苦しいけれどこのままはどうしてもいやだった。
すると舌打ちが聞こえて伸ばした腕を掴まれる。今度は世界が少しだけ回る。脚を曲げ体を折る。横向きで落ち着くと枕を引き寄せてそれにしがみついた。
首筋に舌を這わされぞくぞくと体が震える。どっちも汗ばんだ体が触れ合う。爽やかさなんて皆無の状況でも、弟の体温が気持ちよかった。こんなこと初めて知ったけれど、きっと弟だからそう思うんだろう。いやらしくねっとりとした感覚が生々しいのに、腹の奥がどろりと濡れたのがわかる。
──やっぱΩなのか。
国からの通知を見た時も薬を飲んだ時も、自分がΩの実感はなかった。
そりゃそうだ、発情期がこなきゃβと変わらない。目に見えないうちは実感なんてしようがない。
Ωだったことは確かにショックだったけれど、発情期がこなきゃ国からの通知なんて所詮ただの紙だ。父さんのおかげでよく効く抑制剤を飲んでいたから、発情期と言っても頭痛とだるさだけで済んでいた。
だから、体がΩとして機能し始めた今、初めて自分がΩだと実感する。
腹の奥が熱い。
たらりと知らない感覚が尻の中を濡らしていく。裸にされて膝を曲げていたせいで、ひやりと濡れた尻が外気にさらされる。ああ、横向きは失敗だった。せめて弟が俺の尻の現状に気付くのが遅くなるように願うしかない。弟はΩを嫌悪してるから、こんな体に気が付いたらきっと俺を犯すのをやめてしまう。
視線を合わせたら俺の汚さがバレてしまいそうで怖い。怖くて視線すら合わせられないのに、今自分が縋れるのは弟だけで、俺は自分から弟へ手を伸ばす。
「……何?」
「っ、こわ、いから……お前、に……触って、たいっ」
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