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第2話

それから数日が過ぎ、その日も遅番のシフトが入っていた。 梅雨に入り連日雨で、降ったり止んだりと不安定な天気が続いていた。その日も急な夕立で、外は激しい雨が降っていた。 凛は閉店作業に向け外のゴミ箱を回収する為表に出た。裏口のドアを開けた途端、女性の怒鳴り声が聞こえた。声のする方に顔を向けると、僅かな軒下に例のカップルがいた。凛の姿を見た男の方は一瞬ギョッとしたが、彼女の方はお構いなしに大声を張り上げていた。 「おい!声でかいよ」 焦ったように男は彼女の腕を掴んで宥めようしている。 「もう、いい!」 彼女は腕を振りほどき、目の前に止めてある黒い軽に乗り込むと荒っぽい運転で去り、 男と凛の目がバッチリ合ってしまう。 凛は気まずくなり慌てて自販機のゴミ箱を取りに行った。裏口の扉の前に戻ると男は先程の場所で立ち尽くしていた。 再び目が合い男は苦笑いを浮かべ、 「ごめんね、変なとこ見せて」 そう凛に言った。 「いえ……俺こそ、すいません」 修羅場を見てしまって、と凛は思った。 男は降りしきる雨空を見上げ、その場から動く気配がなかった。 (帰れないのかな?) 彼女の車で一緒に来て帰る足がないのかもしれない。この雨だ、歩いて帰る事もできないだろう。 凛は回収したゴミ箱を中に入れると、傘立てから自分の青い傘を手に取った。 その青い傘を差すと、まだ立ち尽くしている男に歩み寄り、 「これ……使って下さい」 凛は俯いたまま傘を差し出した。 「え?」 「帰れないのかと思って……」 「うん、帰れなくて困ってる」 「じゃあ、使って下さい」 「そしたら君、困らない?これ、君のでしょ?」 「予備あるんで……」 嘘だった。予備などありはしない。だが、彼と話すきっかけが欲しくて、咄嗟に嘘をついてしまった。 「サンキュー、必ず返すね」 薄っすらと笑みを浮かべた男は傘を受け取った。 凛は頭を下げると、裏口のドアを開け中に入った。ドキドキと心臓の鼓動が体全体に響いている。 (また話せた……) 男にしてみれば彼女と喧嘩をし落ち込んでいる事だろう。申し訳ないとは思いつつ、凛は嬉しさが込み上げていた。 窓から外を見ると、男が凛の青い傘をクルクル回し歩いているのが見えた。 その日の帰りは持ち主不明のビニール傘があった為、それを勝手に拝借して帰った。

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