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第8話

自販機の前に行くと、智樹が物思いに耽っている様子でタバコを吸っていた。 「あれ?早いね」 泣き腫らした目を隠すように凛は俯き、 「早退……しました」 近付いてくると凛の顔を覗き込み、察したのか頭を撫でてきた。 「車で来たから」 白い四駆タイプの助手席に大人しく乗り込むと、着いた先は智樹のアパートだった。 「上がって」 凛はソファに座ると目の前にコーヒーが出された。一口啜ると無意識にホッと息を吐く。 「なんで……同じようなDVDばっかり借りてたんですか……?」 「んー?勉強?ゲイの人の気持ちが分かるかと思って」 「どうでしたか……?」 「結局、同性愛云々なんかじゃないって事」 智樹はタバコに火を点けると、穏やかな笑みを浮かべた。 「どう生きるか、ゲイの自分とどう向き合っていくか。ラブストーリーだとは思わなかったな。人生論だと思った」 「……っ」 凛のその言葉を聞いた瞬間、涙が溢れてきた。 不意に智樹に抱きしめられた。 「男を好きである自分を否定するなよ。俺を好きな自分を認めろよ。おまえを抱いた日、俺はおまえを好きな自分を受け入れたよ」 「――っ」 「好きなんだ」 そう言ってぎゅっと抱きしめられた。 「彼女……とは」 「とっくに別れたよ。なかなか別れてくれなくて揉めて、だから店にも行けなかった」 それで一ヶ月近く、店に来なかったのだと納得した。 「あの映画を見たら……怖くなって……智樹さんが好きなのに、素直に受け入れなれなくて……男しか好きになれない自分が嫌で……」 凛は智樹の胸に顔を埋めた。 「あの映画みたいに……繋がったと思っても離れて行くんだろうって……自分とあの主人公が重なって……傷付くのが怖くて……っ」 暫く凛は智樹の胸で泣いた。子供をあやすように、そっと背中を撫でる。 「映画は映画だ。俺たちは最高のハッピーエンドにしよう」 凛はそのキザな台詞に思わず吹き出す。 「言ってて……恥ずかしくないんですか?」 「寝ずに考えた台詞バカにしやがったな」 そう言って鼻を摘まれた。 「そうだ、今日借りたDVD観るか」 智樹はキャリングからDVDを取り出し、レコーダーにセットした。 美しい情景のその映画の結末はハッピーエンドで凛は幸せな気持ちになった。 隣にいる智樹を見ると智樹は笑みを浮かべ、 「ハッピーエンドだったな」 そう言ってキスをくれた。

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