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どっちがお好み?
昼時の混雑が落ち着き始めた頃西園寺と武市が和希達を迎えにやってきた。
着替えと昼飯をとるために一旦彬の美容院に戻る帰り道で渡邉が感心したように言った。
「戸川すげー声掛けられてたなぁ」
うんうんと豪が頷く。
「名刺もこんなに」
和希が渡される名刺を豪は片っ端から取り上げ、その束になるほどの名刺を熊の着ぐるみの中から取り出して見せた。
和希は自分でも驚いていた。
掛けられる声の多さにはもちろんだが、男だと誰一人として気付かれなかったことにだ。
高校生から社会人、中には恋人同士できていた男から名刺を差し出された。
レシートの裏にトークアプリのIDと名前や電話番号が書かれた物も数え切れないほど渡され、
豪がゴミ箱に丸めて捨てるのを呆然と見ていた。
と、同時に少し安心もしていた。
これならきっと壮史にもバレてない。
ほっとすると和希の腹の虫がぐーっと鳴った。
「西園寺さん、俺肉!肉が食いたい!」
へいへいと面倒くさそうに返事をする西園寺に束の間の休息に期待した。
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