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溢れる家族愛
「とっ、戸川!」
彬に襟首を引っ掴まれ子猫のように引き摺られ店内に連れ込まれた和希を見て豪が慌てる。
よぉと和希は軽く右手を上げてみせる。
「この子ったら外で覗いてたのよぉ、真魚ちゃんにお説教してもらわないと」
ポイと和希を放すと彬は頬を膨らませて言った。
「あ、そうそう、この子先月末に入った新人さんなの、よろしくねぇ」
彬が肩を抱いて和希の前に連れてきたのはさっき豪が花を渡していた女性だった。
「赤坂風美と言います、こんにちは」
豪からもらった花を大事そうに胸に抱き彼女は丁寧に挨拶をした。
「戸川和希です」
「和希ちゃんはね、真魚ちゃんのとこでバイトしてるのよぉ」
そうなんですか、と彬を見上げながら彼女は笑顔を見せる。
「あ、和希ちゃん、ちょっと」
彬に肩を抱かれバックヤードに連れ込まれる。
「どうせ真魚ちゃんから聞いてきたんでしょ。面白がってんだったらとっとと帰んなさい」
「面白がってなんかないって!豪とあの人上手くいきそうなの!?」
「そうねぇ、悪くはないけど、社会人と学生だからネックはそこね」
スタッフたちの休憩にも使われているバックヤードで彬が休憩スペースの椅子を和希に勧め、インスタントのコーヒーを入れてくれる。
「風美ちゃんはね、若いのに真面目で努力家でとってもいい子なの、ご両親が早くに亡くなってお祖父ちゃんお祖母ちゃんに育ててもらって、
だから早く一人前になりたいって誰よりもたくさん勉強してるのよ」
プライベートなことをペラペラと話す彬に呆れつつも、そんなにいい子ならなおさら豪と上手くいってほしい気持ちが強くなる。
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