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溢れる家族愛

バイト帰り、和希は彬の美容院に来ていた。 ガラス張りの美容院だ、中を覗くのは簡単だが、下手をするとこちらの姿も丸見え。 一度美容院を通りすぎる振りで中を覗き、豪がいないことを確かめると、美容院の入り口が見える角に身を潜めた。 5時半を過ぎたところで豪が姿を見せる。 ガーベラの花を一輪持った豪が緊張した顔で美容院に入って行くと和希は慌てて美容院のガラスにへばり付いた。 彬に何やら声を掛け頭を下げた豪の肩を彬がニコニコしながら叩き、店の奥に声をかけているようだ。 店の奥から背の低い女性が現れると豪が気を付けのように直立不動になり、持っていた花を手渡すとその女性は嬉しそうに笑い花を受け取った。 間違いない、豪はあの女性が好きだ。 小柄で肩くらいの長さの髪を綺麗に編み込み、ナチュラルに化粧をしている。 優しそうで笑顔のかわいい女性。 2人の雰囲気の良さに和希は思わず笑顔になっていた。 美容院のドアが開きドアベルがカランと鳴ったのにも気付かないほど、2人を見つめていた。 「和希ちゃん、あんたそこで何やってんの」 野太い声が和希の名前を呼び、漸く我に帰る。 「覗きならお巡りさん呼ぶわよ」 腕組みをしながら上から見下された和希は小さくごめんなさいと謝った。

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