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第1話

「今日、ラッキーなアナタは蠍座のアナタ! ラッキーアイテムは穴の空いたビニール傘だよ」  なんていうのを充てにしていた訳ではない。ないが、今日、ラッキーな筈の蠍座の梅木原煌(うめきはらこう)は穴の空いたビニール傘を片手に雨の中を走っていた。 「煌先輩、こっちです。こっちです」  別に梅木原は自身をヤンキーだとは考えてはいないのだが、アッシュゴールドの入った髪をツーブロックにして、サイドの毛を綺麗に編み込んでいるのが似合っていた。そんな目を惹く容姿に加え、また腕っ節も良い。だが、決して無謀でもなく引く時には引くこともできるクレバーなところもあり、後輩……特に、香井(かがい)を舎弟として側に置いておくことが多かった。 「はぁ、なんか、災難でしたね」  梅木原はなんとか、屋根の設置されているバス停に駆け込むと、穴の空いた傘を畳んで、ソファへとかけた。おそらくお年寄りや妊婦といった乗客がバスを待つ時に辛くないように、ということなのだろう。新品ではないが、皮が破れたり、綿やバネが飛び出していたりということはなく、比較的綺麗なソファだった。 「全くだな……ん、何だ?」  梅木原は腰をかけた部分に違和感を覚えると、ソファから立ち上がった。梅木原がその正体であるものを握る。 それは男物の1本の傘で、目の前には高級感のある黒い布地に、それに合わせた木目の美しい柄。質も品も良さそうなものだった。 「渋い傘ですね。煌先輩、似合いそうです。先輩の傘、穴、開いてるので、持っていっちゃいましょうよ」  香井が声を弾ませると、梅木原も満更でもなく傘を眺める。だが、すぐに梅木原は不敵に笑みを浮かべると言った。 「それは無理だな」 「え?」 「ここに名前が書いてある」  正確には名前は柄にそれに似合うように黄金に静かに輝くネームプレートがつけられていて、持ち主の名前が筆記体であしらわれていた。 『Soumei A.』 「ソウメイ、エー?」 「多分、向こうからやってくる野郎がそうなんじゃないか?」

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