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第2話
土砂降りとも言える雨の中、深緑の違う傘を差して、梅木原達のいるバス停へと向かってくる人物。柔らかなアッシュベージュの髪色をした彼はまるでどこかの王子様かそれに準じた何者かのように見える。
「ああ、貴方が拾ってくださったんですね」
Soumei A.だろう傘の持ち主はバス停まで差してきた別の傘を畳むと、にこやかな笑みを浮かべて会釈する。サイズの合った、いかにも仕立ての良いスーツを着ていることと言い、そのスーツが手に余ることなく着こなせていることと言い、傘の持ち主として見合っているように見えた。
だが、
「はっ、残念だったな! この傘はたった今から名誉にも先輩の手足となり、雨風から御身をお守りする盾となることになった!!」
香井は梅木原とSoumei A.なる人物の間に割って入ると、高笑いとともに高らかに宣言する。
ただ、それは香井の脳内で決まっているだけに過ぎなかった。
しかも、
「あの、百歩譲って、手というのは分かるんですが、足というのは……」
Soumei A.なる人物は大きくてぱっちりした目の開くと、困惑気味に梅木原達を見る。梅木原は目の前の王子然とした彼にますます世間ずれしていなそうだと評価を下すと、香井に自身の穴の開いたビニール傘と小銭を押しつけた。
「こんな傘でも1つあれば、お前だったら新しい傘を買ってこれるだろうな」
その言葉に香井の表情はパッと明るくなる。
よく手足のように動く人間をイヌだというが、良い意味で香井は大型犬のようだった。
「ちなみに、この傘って……」
香井が言う「この傘」とは本日の梅木原のラッキーアイテム・穴の空いたビニール傘のことだ。
「やる。適当に処分しろ。任せる」
梅木原が香井の分かるように言葉を吐くと、香井は「20分で戻って来ます」と土砂降りの雨の中を穴の空いたビニール傘1本で飛び出していった。
「よろしかったんですか?」
「ん?」
Soumei A.はまだキョトンとした状況を脱さないままで、梅木原に声をかける。声をかけられた梅木原は短く返した。
「いや、ここ、山の中ですよ? 雨も降ってますし、とても20分で帰ってこれないと思うのですが……」
梅木原が何も言わないので、Soumei A.はだらりと言葉を続ける。それは尤も主張だったが、梅木原はハハハ、と低いトーンで笑う。
「あいつ、あれでいて走るの、速いんだ。20分なら裕に戻ってこれるだろうさ」
「はぁ、それなら良いのですが……」
「それよりも、悪かったな。あれも悪いヤツじゃないんだが、バスも降りる筈の駅を通り過ぎるわ、傘が使い物にならなくなるわ、雨も止む気配もねぇわで、傘をパクって帰ろうって思っちまったんだろうよ」
梅木原はSoumei A.に詫びを入れると、どっかりとソファにかけた。
「俺は梅木原だ」
「あ、これは私としたことが申し遅れました。私は雨宮聡明(あまみやそうめい)と申します」
Soumei A.は雨宮聡明と名乗ると、最初、梅木原に向けたように会釈した。
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