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第3話

「お隣、失礼しますね」  梅木原は横目に雨宮が腰かけるのを見る。傘を差して、バス停へとやってきた為、最初は雨宮の顔は品の良い傘に隠れていて、同じく品の良い口元しか見えなかった。  だが、傘を畳み、梅木原への会釈の後に向けられた顔はやはり甘やかに整っていて、上品そうな雰囲気を醸し出していた。 「あの、私の顔に何か?」  にこやかな笑みはそのままに、雨宮は梅木原を見つめてくる。 「あ、いや、どっかの国の王子サマみてぇだな、と思って。あとは俺と同じくれぇかなって思っただけ」  雨宮はスーツを着ているせいもあり、梅木原は雨宮の年齢が分かりかねていた。もしかすると、学年は梅木原と違うかも知れないが、高校生くらいに感じる。そうではなく、少し童顔の大学生くらいにも、見えなくもない。  中学生でもぎりぎりあり得るのだろうけど、その場合はかなり老成した中坊だと梅木原は思った。 「あ、これはまた失礼を。私は青水(おうみ)学園高等部の第2学年に所属しております」  高等部の第2学年ということはやはり梅木原と同じ学年で、梅木原は 「服で分かるだろうけど、無月(むげつ)高校。2年だ」 と返した。  簡単に言ってしまうと、雨宮の通う青水学園は都内でも有数の偏差値の高いお坊ちゃま学校で、梅木原の通う無月高等学校は15年前くらいまでは偏差値は20のヤンキー学校として大人達から悪名高かった。  そんな対照的な学校に通う2人の人間が土砂降りの山の中のバス停で同じソファに座って、会話している。それはあり得ないことではないにしても、そうそうあることではなさそうだった。 「梅木原さんは上背もあるし、お強そうですね。私も格闘技は1通り、嗜みましたけど、やはりある程度のところになってしまうと、どうしてもそれから先は伸びづらくなってしまって」 「へぇ、なんか、意外だな。格闘技っていうよりは茶、点てたり、油絵とか描いたりする方が似合いそうだけど。身体を動かす系なら弓道とかフェイシングとか?」  見た目がひ弱とまではいかないが、物腰や佇まいといったものが柔らかく、王子のような雰囲気なので、雨宮が格闘技を身に着けているとは梅木原は思わなかった。だが、言われて見えれば、身長は梅木原よりは低いのだろうが、すらりと背筋の伸びた綺麗な体躯をしていた。 「男子たるもの、武術の1つや2つは体得するに越したことはないという父の教えで。まぁ、幼少の頃は誘拐されかける場面も。誰かに護ってもらうのも悪い事ではないのでしょうが、できれば、誰かを護れるようになりたい。そのように思い至りました」 「へぇ」 「あとは油絵ではないのですが、水彩画と水墨画を少々。サーブルはまだ触れた事はないのですが、フルーレ、エペ、弓も少しだけ。茶道も茶名までは持っておりますので、若輩者ではありますが、それなりにおもてなしできるかと」  素行の良くないドラ息子ではなく、優等生系のお坊ちゃまあるあるなのだろうが、この分だと梅木原が言ったものよりも多くのものを雨宮は嗜んでいるだろう。そして、場合によっては段位や許状、技術や感性といったものを持っているのだろう。

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