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第4話

 割と、梅木原も器用なところがあり、大体のものが卒なくこなせるのだが、その時々でムラっ気もあり、会得するのも独学の部分もあり、梅木原の方が若干、分が悪そうだった。  しかも、雨宮がそもそもこんな辺鄙な場所に構えられたバス停に傘を置き忘れてしまった理由もいちいちかっこよかった。 「実は、この近くに茶道の教えを頂いていた南雲明山(なぐもめいざん)先生の庵がありまして。今日は折笠(おりかさ)君も不在にしていたので、久し振りに1人でバスへ乗ったんです」 「折笠?」 「あ、私の学友で、私の1番身近な格闘技の師匠であり、運転手はまだ日本でのライセンスを取得できないので無理ですが、1年前からスケジュールの調整も務めてくれています。梅木原さんでいうところの香井さんみたいな存在でしょうか」  雨宮の話を総合すると、折笠は雨宮と同じ学年のクラスメイトかつ執事を兼ねた存在らしい。それに対して、梅木原にとっての香井は舎弟であり、梅木原の世話役ではあるものの、少し考えなしに何かを言い、またやってしまうところがあり、梅木原が香井の世話を焼いているのも日常的だった。 「あいつはそんな優秀なヤツじゃねぇけどな」  ついでに、雨宮と比べると、俺もな、なんて思うと、 「話の腰を折って悪かった。続けてくれ」  と言い、雨宮に話の続きを促す。 「私は明山先生の庵へ立ち寄って、帰る際にバスに乗ろうとされているご婦人がいましてね。その方のお手伝いをさせていただいていたのですが、バスが閉まってしまいまして。鞄は持っていたのですが、傘を置いて行ってしまったのです」  話を続けてくれ、という割には呆気なく終わってしまった話に雨宮は恐縮だと言わんばかりに黙り、梅木原へ笑いかける。  どうやら、それが御曹司である雨宮がこんなところへ傘を置き忘れてしまった顛末の全てのようだった。

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