7 / 7

あまいろこいもよう

   それから放課後は図書室で先輩と一緒に本を読む。そんな放課後を過ごしていた。  というのも、休み時間ごとにぼくの教室へ来ていたぼくが先輩のパシリと教室内で飛び交っていた。  そんな根も葉もない嘘の情報がこれ以上広回ってほしくないし、先輩はそんな人じゃない。  なので、先輩にお願いして放課後図書室で一緒に過ごすという約束を取り付けた  金曜日の放課後。  いつもはすぐ図書室へとやってくる先輩が、今日は1時間たっても来ない。  別に毎日一緒に過ごすという約束はしていないし、何か用事があったのかもしれない。………女の子と一緒に過ごす、とか。  先輩は遊び人でいろいろな人に手を出していたんだから、放課後は忙しいんだ。  ただ今までは、ちょっとした気の迷いでぼくと一緒に過ごしていたんだろう…。  なんか……胸がモヤモヤする…。  胸の奥がぎゅーっと押しつぶされる…。  ぼくは読んでいた本を閉じ、図書室を出た。  今日はこれ以上は本の世界へと没頭することはできなさそうだ。    厚い雲はかかっているが、雨は降っていない。  ぼくはバス停まで足早に向かう。  そういえば、先輩と初めて会ったときは大雨が降っていて、びしょ濡れになった。  そんなぼくに話しかける先輩に最初は絶対関わらないようにしようと思っていたのに――先輩と一緒に過ごすうちに、先輩を好意的に思っている自分がいて――  あれ?バス停にいるの……先輩…?  先輩に少し話しかけてみよう…かな。  今日はもう会えないと思っていた先輩の姿を見つけたことで、嬉しくなって小走りで先輩のもとへと向かう。 「――せんぱ………」  先輩を呼びかけるのを途中でやめた。  ………先輩の隣にもうひとり人がいたのだ。  女の人…?いや男の人だ。すごくきれいな人。  ぼくはその場に立ち止まったまま、先輩と綺麗な男の人の姿を眺めた。 「恭也くん今日は急にごめんね」 「ルカさんが謝ることないですよ」  二人の会話が聞こえてくる。  かなり親しい仲なんだろう。  先輩の隣に立っている人は本当に綺麗で、儚いような――守ってあげたくなるような人で……。  じーっと見つめていたぼくの視線に気づいたのか、先輩にこっそり耳打ちしているルカさんと呼ばれていた綺麗な人。 「あっ!楓くん!」  ぼくのもとへと駆け寄ってくる先輩。 「今日は図書室に来れなくてごめんね。急用が入っちゃって…」  その急用がその人と一緒に過ごすことで…。 「…………そっか。先輩とその人は付き合っているのか」  見ていればわかる。すごく親しい仲で、その人との用事を優先する。そして何より二人は遠目から見てもわかるぐらいお似合いだ。 「えっ?何言ってるの楓くん!?」  ぼくは脳内に焼き付く二人の姿に胸のもやもやがどんどん広がる。  この胸のもやもや……これは嫉妬なんだ。  お似合いの二人の姿に嫉妬してしまっていたんだ。そして―― 「………いつの間にか先輩のこと好きになっていたんだ」 「えっ!?それってほんと!?」  いきなりぼくの手を握る先輩。 「オレも楓くんのこと好きだよ」  いつの間にか雨が降り出し、バス停の屋根の外へといるぼくと先輩の体に雨粒が当たる。 「あのぉ…先輩はさっきの人と――」 「さっきの人は、オレの兄貴の恋人」  え、え、先輩のお兄さんの恋人?  じゃあぼくはとんでもない勘違いをして……そして自分の気持ちに気づいてしまったってこと…? 「オレたち、恋人同士だね!」  ぼくの手をぎゅっと握りしめた先輩は雨で濡れていつもよりさらにかっこよくみえた。 「はいっ!」  ぼくは先輩に微笑む。  先輩はぼくのことが好き、つまり先輩とぼくは両思い。 「………嬉しい、かも」 「なにそれ反則だよ楓くん。可愛いすぎ……」  ―――梅雨のある日、出会った場所でぼくと先輩の恋は始まった。 あまいろこいもよう 終

ともだちにシェアしよう!