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それからどのぐらい時間がたったのだろう――本の世界へ集中していたぼくは、ふと向かいに座っている先輩の方を窺った。
「あー!面白かったー!」
と同時に先輩が自分の読んでいた本を閉じ、両手を上に向けて体を大きく伸ばしている。
そんな先輩と視線がばっちりと合ってしまい――。
「めっちゃ集中しちゃったよ」
先輩はぼくに笑いかけているので、ぼくも本を閉じ先輩に相槌を打つ。
「楓くんもその本読み終わったの?」
ぼくが閉じた本をちらっとみた先輩に、「はい」と一言返事した。
「そっか。でもこんなに本を読むのに快適な場所で面白い本が読めてよかったなー」
「ぼくもです」
思わず身を乗り出す勢いで返事してしまったぼくに優しく笑いかけている先輩。
「そろそろ帰ろうか」
ぼくの持っていた本と自分の本を取り、席を立った先輩は元あった場所へと本を直しに行く。
ぼくも慌てて先輩の後をついていく。
「――先輩、本……あっ」
自分で直しに行きますと言う前に、ぼくが読んでいた本が直してあった棚へと本を直している先輩。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。先に外出てていいよ。オレこれ直してから来るね」
ぼくはその先輩の言葉に返事し、店内を先に出ることにした。
それから1分もしないうちに店から出てきた先輩は、自然とぼくの手を取った。
「ぇ、先輩……手……」
「じゃあ行こうか」
ぼくの言葉を遮るように、手を握ったまま駅の方向へと歩きだした先輩。
結局、行きと同じように先輩と手をつないでいる。……けど別に嫌じゃない、かな…。
ぼくはこっそり隣を歩く先輩を見上げた。
それにお出かけも悪いものじゃないかも。いつも家で引きこもっていたけど、家から一歩外に出てみたら、いろいろ発見することもあったし、本カフェなんてものがあるのも初めて知ったし――。読みたかった書物も読めたし……
「楽しかったなー」
「よかった。楓くんに楽しんでもらえるデート大成功!」
思わず出てしまったひとりごとにすぐさま反応した先輩。
「はい。読みたかったものも読めましたし……」
って、ぼくは楽しかったけど……読書にあまり興味のない先輩はつまんなかったのでは………。
「よかった。オレだけ楽しんでたんじゃないかってちょっと心配だったんだよね―」
「え…先輩も楽しんでくれてたなら嬉しい…かも」
「うん。読書好きになってきたしねー。本を読んでいたら、知らないこともたくさん知れるしね。それに自分が物語の中の主人公になれて、いろいろ体験できる。本の世界っていいね!」
先輩は目を輝かせながら、握っているぼくの手をブンブン振っている。ぼくはそんな先輩に思わず笑みがこぼれた。
「……ぼくもです」
ぼくも本の世界へと入り込むのが好きだ。本の主人公に自分がなれるのが好きだ。
なんか、先輩と一緒に過ごしてて苦じゃない、むしろ先輩が隣にいるのが居心地がいいなんて思っちゃってるぼくがいる―――。
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