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デートで急接近
*
来る日曜日――。
ぼくは待ち合わせである、駅へと向かっているが足取りは重い…。
はぁー。日曜日だからどこも人多いだろうな…。憂鬱だ。
ただどんなにゆっくり歩いても、いつかは目的地に着くもので――
「あっ!楓くん!」
先に駅についていた先輩がぼくの姿に気づき、笑顔で手を振っている。
腕時計で時間を確認する。12時35分。
待ち合わせ時間は1時だったので、30分近く早い。
「おはよ。っておはようの時間じゃないけど」
「………先輩、はやい、ですね…」
その場で立ち止まっていたぼくのそばへやってきた先輩。
「あんまり時計とか見ずに来たら、早く着いちゃった」
先輩らしい答えが返ってきて、少し安心した。
ぼくより先に到着するために、わざわざ30分前には待ち合わせ場所にいたのではないかと思っちゃった。
「じゃあ行こうか」
そう言いぼくの手を握る先輩。
「えっ……」
………手…。
先輩はぼくの手を握ったまま歩き出したので、ぼくもそのままついていくことしか出来ない。
「ぁーの……どこに…」
駅前からかなり歩き、人が全然通らない小道へと入っていく先輩。
「んー。それは着いてからのお楽しみ」
いまだにぼくの手を握っている先輩が、ぼくの手ごとブンブン振り回している。
でもこんな誰も通らないようなところに何があるんだろう…。
もしかして、かなーり危険なところへ連れて行かれるのでは……。
いやいや、先輩に限ってそんな、ねぇ…。
ぼくは隣を歩く先輩を見上げたが、にこにこ笑顔で何を考えているのか全く読めない。
「でもさ、オレって雨って嫌いだったんだよね。だから梅雨の時季なんて最悪。ほとんど毎日雨だし…」
「………嫌い、だった…?」
過去形?
「そう嫌いだった。だって雨の日って出かける場所も限られてくるし、どんよりした空気がすっごい嫌だったんだよね。でも、今は雨もいいかもって思えるようになった」
「………なんで」
そんなまたどんな心境の変化が?
「雨の日でも楽しめることたくさんあるって気づけたしね。――それに……」
急に歩くのをやめる先輩。
どうしたんだろう…。
「――楓くんと出会った日も雨の日だったしね、雨に感謝しなきゃだなー」
なんでぼくに出会ったのが雨の日だったからって、雨が好きになるんだ。
そう頭の中でぐるぐる考えていたぼくの顔を覗き込む先輩。
「うわぁ…!」
「大丈夫?疲れちゃった?」
「ぇ、ぁっ大丈夫、です…」
「よかったぁ!でも着いたから、ゆっくりしよ」
先輩が目の前の木造の建物を指差している。
「さ、入ろう!」
「……ここは……?」
そんなぼくの質問に答えず、手を引いて建物内へと足を進めていく先輩。
「――すごいっ!!」
所狭しに配置されている大きな本棚。その本棚に綺麗に整頓されている本たち。
「ここ…本屋さん…?」
「まぁ、とりあえず席に着こう」
入り口で立っているぼくを、近くの2人掛けの席へと誘導した先輩。
「ここは本カフェだよ」
「………本カフェ?」
「そう。ご飯とか食べてゆっくり本が読める場所」
「じゃあこの本たちは自由に……?」
「うん。読めるよー」
そんな素敵なところが生活圏内にあったなんて、全然知らなかった。
まぁ休みの日は家にひきこもっていたから知らなかったのは当たり前なんだけど……。
「よかった。楓くんに喜んでもらえて」
「ぇっ…」
ぼくまだ何も言ってないけど…。
「さ、ここで今日はゆっくりしよう」
立ち上がった先輩がぼくの手を取り、大きな本棚へとぼくを連れていく。
「え、これすごい貴重なやつ……」
ちょうど眼の前にあった本は、学校の図書室にもよく利用する図書館にも、書店にも置いていない書物で、ぼくが一番読みたかった本だ。
「そうなの?どの本?」
「………これ…」
ぼくのつぶやいた声に反応した先輩に、指差す。
そんなぼくを微笑んだ先輩は、ぼくの指さした本を手に取り渡してくれた。
「ぁ、ありがとう」
「いえいえ。先に席に戻って読み始めててもいいよ。おれも読みたい本選ぶね」
先輩はアイドル並みの綺麗なウィンクをぼくに向かってすると、本を選びに向こうの棚の方へと歩きだしていった。
あんな綺麗なウィンクを間近で流されたことない…。
女の子たちがアイドルのウィンクに黄色い声を上げる気持ちが少しわかった…かも。
ってそんな気持ちわからなくてもいいんだけど……とりあえず先輩はあんなウィンクをいろいろな女の子にも向けてるんだ。
なんか嫌だなー。
いやいや。何言ってるんだぼくは!
本読もう、せっかく読みたかった書物なんだ!
ぼくはもやもやする気持ちを無理やり追い出した。
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