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本の世界で第一の事件が発覚された、ちょうどその時、図書室の扉がガラガラと開く音がした。
図書委員会担当の先生が来たのかな…。
ちょうど入り口から死角になる席に座っていたぼくは、先生なら一言挨拶しようと席を立って、入り口が見える方へと―――
「あっ、やっぱりここにいた!」
入口の方で嬉しそうにぼくに声をかけた人物は………一番見つかりたくなかった人物で…………
てかなんでここにいるって…!?
普通教室にいなかったら、先に帰ったって思うよね?
「楓くんもしかして、毎日放課後、図書室で本読んでるの?」
ゆっくりとぼくの方へと近づいてくる…。
「これ結構大人気のミステリーシリーズだよね?」
「………知ってるんですか…?」
ぼくが持っているさっきまで読んでいた本を指差している麻生先輩。
ぼくとの距離はあっという間に縮まっている。
「うん、読んだことはないけどね」
やっぱりそうだよね。
先輩が読書しているイメージが湧いてこないもん。
「でもせっかく図書室に来たからオレも本読もうかな~。楓くんまだここでその続き読むでしょ?」
ぼくが持っている本を指差している。
小さく頷いて返事したぼくを見た先輩は本棚の方へと歩いていった。
ぼくは先ほどまで座っていた場所に戻り、続きを読み始める。
それから5分後くらいにぼくの座っている隣の椅子が引かれる音がし、先輩が一冊の本を持ったままその椅子へと座り、本を読み始めた。
本当に読書するんだ。
ぼくはちらっと隣に座る先輩が持っている本を覗いた。
それはピンク色の装丁な本で恋愛小説。
確かこれ、主人公の初恋の話で、甘酸っぱい青春物語だったはず。
なんか意外だなー。
チャラくて軟派なイメージの先輩が甘酸っぱい恋愛小説を選んでくるなんて……。
こっそり先輩の顔を見ると、真剣な眼差しで文字を目で追っている。
ドキッ
胸が高鳴る。
なんだ今の……??
なんで胸が…………
ぼくは視線を本に移し、気を取り直して続きを読み始める。
今のはなにかの間違い。
いつもヘラヘラしている先輩が、真剣な表情をしてるから少し驚いただけ。所謂ギャップに驚いただけ。
ただそんな表情の先輩はいつもと違って少し、少しだけかっこよくみえた。
*
チャイムの音が鳴り響き、ふと我に返った。
あのあとお互い無言のまま、ずっと本の世界に入り込んでいた。
「うわぁーもうこんな時間だ」
先輩が時計で時間を確認し、本に栞を挟んでいる。
そのとき見えたページ数は、かなり読んでいて残り少ない。クライマックスに差し掛かっているようだ。
「ね、この本借りたいんだけど、大丈夫?」
「ぇ、あっ……」
先輩が手に持っている本を凝視していたぼくにそう声をかけ、席を立った。
「これ、あとちょっとなんだよね。めっちゃいいところ!楓くんはこの本読んだことある?」
そう嬉しそうにぼくに話しかける先輩に首だけで返事する。
「そっか。読んだことあるんだね!あぁ~主人公の恋実ればいいな……」
後半はひとりごとのようにつぶやいた先輩。
この物語はハッピーエンドだった。つまり最後はこの主人公とヒロインは恋人同士になる。
でもそれを言ってしまったら完全にネタバレになるので、黙っといた。
「あー、早く帰って続き読まなきゃ」
図書室からの帰り道、自然な流れで先輩と歩いている。
「………なんか意外だな…麻生先輩が読書って」
「んっ?確かにここあんまりというか全然本なんて読んだことなかったけど……」
思わず出た独り言が、バッチリ先輩にも聞こえていたらしい。
「てかてか!今、名前呼んでくれた!!麻生先輩って!」
急にそう発した先輩。
「しかも、やっと楓くんと少し話できたしー」
まるで宝くじでも当たったような喜び方だ。
いや宝くじ当たったことはないんだけど。
「あっ、その流れでデートのお誘いをしよかな」
「…………でーと?」
「そう!今週の日曜日、お出かけしよう」
「………ぇっ…あっ…」
基本休みの日は家から一歩も出ないので、人混みは大嫌いだ。
でも先輩はどんどん話を進めていき、お昼1時に学校近くの最寄り駅集合ということになってしまっていた。
「大丈夫!楓くんに楽しんでもらえるようなデートプラン用意しとくから」
ぼくの頭を撫でながら、綺麗なウィンクをした先輩は「楓くん髪さらさら」と嬉しそうにしていたので、そのまま断ることができなかった。
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