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図書室で急接近!?

 梅雨入りした日から、毎日雨が続いている。  あの日以降、麻生先輩とはバス停でも登下校のバス内でも遭遇していない。  あの日たまたまぼくが利用しているバスに乗る用事があっただけなのだろう。  名前も学年もクラスも名乗っていないのでこれから先、先輩と会うことはないだろう。  だいたい今まで同じ学校内でも会っていないし、そもそも先輩とは話が合う気もしない。  そういえば………麻生先輩についての新たな噂が、出回っていたような――― 「佐藤!」  昼休み。  窓際の席でぼーっと雨空の外を眺めていたぼくに、教室の後ろの入口から声をかけてきた人物は、クラス内で中心的存在の人物で今まで一度も声などかけられたことない。 「…………ぇ、えーと…」  ぼくは吃りながらも返事をし、彼のもとへと向かう。 「―――せんぱい、ほんとに佐藤に用事ですか?人違いじゃ……」 「ううん。人違いじゃないよ。めっちゃ探したし………」  教室の前の廊下で、ぼくを呼んだ彼とある人物が話している。  ―――てか、この声聞き覚えあるような……少し低めで軟派な印象の話し方。 「あっ!いたいた!」 「………麻生先輩…」  こっそり廊下を覗こうとしていたぼくに気づき、嬉しそうに手を振っている。 「なんで……」 「もうあのときオレのこと完全無視してたでしょ?」  ニコニコ笑顔の先輩。  もしかしてあのとき先輩のこと無視してたから、それの復讐のためぼくのこと探していたのか…?  なにをされるんだろうか。  先輩の顔を窺う……がただ笑ってこちらを見ている。  こういう軽薄な人物は顔を見ても本心まではわからない。 「あれから調べたんだよ~。佐藤楓くん。2年A組。出席番号7番。図書委員会所属。部活は入っていない。趣味は読書?かな」  ヒッ…!怖い…。  個人情報をなんでこんなにあっさり調べ上げられるんだ。  怖いよこの人。 「別ににただ楓くんともっとお話して仲良くなりたかったから調べたんだよ。だからそんなに怯えないで」  そう言い、教室の中にいるぼくのそばへゆっくりと近づく。  てか教室内に入ってきてるよ…。 「そうだ。今日一緒に帰ろうよ!放課後、迎えに来るね」  ぼくの頭に乗せられた先輩の手のひら。  教室内は先ほどまでガヤガヤと賑やかだったのに、今は誰一人声を発しておらず、こちらを――先輩をじーっと見ている。  間近で見る先輩の顔は目鼻立ち整った美形で、タレ気味の目尻が笑っていることでさらに下がっている。 「……あっもうすぐチャイム鳴るね。じゃあ放課後迎えに来るからね」  時計をちらっと確認し、ぼくの頭に乗せていた手のひらでポンポンと二回軽く頭を撫でて、颯爽と教室を出ていった先輩。 『てか恭也先輩と佐藤どういうつながり!?』 『恭也先輩って付き合ってた人たち全員と別れたんだよね??』 『―――佐藤をパシリ、カモにでもする気なんじゃね!?佐藤押しに弱そうだし』  麻生先輩が去ったあと、教室内はそんな声が飛び交っていたが、何が何だか状況がいまだに掴めずにいるぼくにはそんなクラスメイトの声など聞こえていなかった。  *  あのあとはすぐチャイムが鳴り、午後からの授業が始まった。  授業中も、クラスメイトの視線がぼくの方に集まっている。  今までこんなにクラスメイトの視線がぼくの方に集まったことない。というか空気のような存在だったのにな…。  とりあえず、放課後また先輩がここに来る。  迎えに来るって言ってた…。  先輩が来る前に、教室から逃げないと。  いつもはしっかり黒板の文字をノートに写しているが、今日はそれどころじゃなく、授業内容にも全く集中できないまま、午後の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。  いますぐ逃げよう。  ぼくはカバンに物を適当に詰め込み、誰よりも早く教室を出て、誰一人利用者のいない図書室へと逃げ込んだ。 「ふぅー……」  図書室内の椅子に腰掛け、一息ついた。  ここなら大丈夫。今までここを利用していて、この図書室を訪れる人物はいなかった。  先輩も教室に行ってぼくがいなければ諦めて帰るだろう。  カバンの中から借りた本を取り出し自分で返却処理し、棚の方へと直しに行く。ついでに面白そうな本を探す。  あっ、このシリーズまだ読んでないんだよねー。  ぼくは一番最初の巻のミステリー小説を手に取り、さきほどの椅子に腰掛けさっそく本の世界へ入り込む。

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