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repentance

 同じクラスの神田ケンタ。  気がつくと、あいつの姿を目で追っていた。  どこにでもいる……むしろ大人しいを通り越して地味なあいつ。  窓際の一番後ろの席で、誰とも喋らずひっそりと過ごしている。  昼休みになるとスクールバッグを小脇に抱えて、静かに席を立つ。どこかで昼飯を食うんだろう。  一人で食うのか? それとも誰かと一緒なんだろうか。  神田が俺の知らないところで誰かと飯を食っているのかと思うと、それだけでイラッとした。  苛立ちの理由はわからなかったが、とにかくイライラが治らない。  俺は神田の後をつけて、相手を確かめることにした。  神田が向かったのは体育館の裏だった。大きな木が一本植えられただけの、何もない場所。  神田は木の下に腰を下ろすと、バッグから弁当を取り出してモソモソと食べ始めた。  誰もやって来る気配はない。いつも一人で食べているんだろうか。  神田が一人だとわかってホッとした俺は、そのまま踵を返そうとして……足を止めた。 「よう、吉住。こんなところで何やってんだ?」  声をかけてきたのは、いつも連んでいる奴らだった。 「……別に」  そう言って何事もなかったように歩き始めたのだが、奴らは神田の存在に気付いてしまった。 「あれ神田じゃん」 「同じクラスの奴か?」 「俺と吉住と同じクラス。地味で暗いボッチくんなんだよなぁ、吉住」 「……あぁ」  神田が見つかってしまった。そのことに焦りを感じた。  俺はこいつらと連んで、まぁそこそこの悪さをして楽しんでいる。ヤンキーとまでいかないが、教師に目を付けられている集団であることには違いない。  そんな奴らが神田に目を付けたら……その後の展開は自ずと読める。 「とにかく戻ろうぜ。腹減ったわ」 「あぁ、そうだな」  俺の呼びかけに、皆は素直に応じた。 だが。 「あーゆーので遊ぶのも面白そうじゃね?」 「つまんねぇよ。あいつはいつも無表情だし、反応薄くてすぐに飽きるぞ」  神田をオモチャにしようとする奴らの言葉に、俺は内心恐怖した。  あいつが乱暴な目にあったら……そう考えただけで吐き気がする。  なのに俺の不安を煽るように、どんどん話が進んでいく。 「でもよ、無表情の奴がどんな顔するのか見てみたくね?」 「やめろって」 「なんだよ吉住。やけに神田の肩持つな。神田と何かあるのか?」 「……そんなことねぇよ」 「だったら別にいいじゃねぇか。最近退屈してたんだよなぁ」  ゲラゲラと笑う仲間たち。  俺の軽率な行動で、神田はターゲットに選ばれてしまった。  最初は靴を隠す程度の、小さな嫌がらせ。それが暴力に発展するまでに、時間はかからなかった。  俺が仲間たちに加わることはなかったが、かと言って止めに入ることもない。  こんなことは今までにもやってきたことだったし、仲間に怪訝な目で見られるのは嫌だった。 ――第一、神田を庇う理由がない。  そう。理由は何一つないのだ。  だから俺は、暴力に興味がなくなった素振りをして、神田がやられているのを見て見ぬ振りをし続けた。  やられてもやられても泣き言一つ言わず、俺に助けも求めない神田に腹を立てながら。  そんなある日の放課後。ついに決定的なことが起きてしまった。  仲間と一緒にいる気になれず、俺は一人で校内をうろついていた。  奴らもそろそろ帰ったころだろうと、カバンを取りに教室へ向かったとき、小さな呻き声が聞こえた。  神田の声だった。  いくら暴力を振るわれても鳴き声一つ上げない神田に何が起こった?  俺は教室へと急いだ。  勢いよくドアを開けた瞬間、飛び込んできた光景に目を疑った  そこには仲間たちにレイプされている神田の姿が。 「ぐぅっ……んんーーーーーっ!」  殴られて腫れた頬に滂沱の涙が流れて落ちる。口に詰め物をされ、まともに声が出せない状態だったが、俺を見て必死になって助けを求めるように呻いた。 「動くんじゃねぇよ! 大人しくしていろ!」  尻を犯していた奴が、呻く神田を殴りつけた。 「ぐぅっ!」  神田の喉から小さな悲鳴が漏れる。 「何、やってんだよ……」  俺は全身をわななかせながら呟いた。 「こいつさ、案外肌が綺麗なんだよ。しかも小せぇし、女の代わりになるんじゃねぇかって思ってな」  新しい遊びだよ、と誰かが呟いた。 「やめろよ! ここまですることねぇだろ!?」  叫びながら神田の元へ駆けつけようとした俺を、別の奴が止めた。 「吉住、何マジになってんだよ。遊びだろ? 遊び」 「そういや吉住、俺らが神田と遊んでるとき、いっつもどっか行くよな」 「お前、神田のこと好きなんじゃねーの?」 「な、に……言って……」 「好きな子がいじめられてるの見るのは、ボクちゃん辛いんでちゅーってか?」  ゲラゲラと笑いが起こる。 「そう言や神田のこと見つけたのも、吉住があんなところにいたからだったよな」 「なんだよ、住吉マジか!」  仲間たちが一斉に俺を見る。  神田も泣き腫らした目で俺を見つめていた。 「……んなこと、あるわけねーだろーが! 俺が男を好きなわけあるかよ!!」 「そうだよな! お前ホモじゃねーよな」  ギャハハと笑い声が上がる中、神田は感情の籠らない目で俺を見続けている。  俺はそんな神田から、目が離せなかった。 「吉住、お前も混ざるか?」 「俺は……いい……」 「そーだよな。お前ホモじゃねーもんな」 「だったら外で見張りしててくれや。誰かが来たらすぐ知らせてくれよな」  俺は言われるがままに教室の外へ出た。  閉じられたドアの向こうから、肉のぶつかり合う音と、くぐもった悲鳴が聞こえ続けた。  俺はその場に蹲り、耳を塞いでいることしかできないでいた。  仲間たちはその後も神田を犯し続けた。  俺はいつも見張り役をさせられて、ただ一人神田に手を出さなかった。  最初のうちは苦痛に呻く声ばかりだった神田の口からは、次第に甘い声が出るようになっていた。  嫌がる素振りもなくなり、自ら足を開いて受け入れる。  頼んでもいないのに、むしゃぶりついくようにフェラをして、喉奥までチンコを入れても平気な顔で受け入れる。  自分からガンガン腰を振り、快楽に喘いでいる。  なまじ女とするよりも具合がよく、一度抱いたら病みつきになるんだと、仲間の誰もが口を揃えてそう言った。  奴らは毎日のように神田を抱き、3P、4Pも当たり前のように楽しんでいる。 「吉住、本当に混ざんねーの?」 「……俺は、興味がない」 「勿体ねーな。神田のケツは最高だぜ?」 「そうそう。しかもあいつもノリノリでヤッてるからな。とんだビッチだったわ」  笑いながらも、自分の順番が回ってくるのを興奮気味に待つ男たち。 ――吐き気がする。  神田を犯す奴らも、それを受け入れる神田も……何もせず、ただ見ているだけの俺自身も。  ようやく全員が満足し、奴らは教室を後にした。  神田は学ランを羽織ったまま、微動だにしない。 「神田……」  静かになった教室に、俺の声が響く。 「制服、着ろよ」 「……なんで?」  神田の口から、そんな言葉が出た。 「早くしねぇと、誰かが来るかも知んねーだろ?」 「そうだね。でもまだ終わってないから」 「終わってない……?」 「うん。まだ残ってる。吉住くん、君がね」  ドクンと心臓が大きな音を立てた。 「俺、は……ヤラない。俺はあいつらとは違う」 「本当に、そう言い切れる? 僕がヤラれてる最中はいつも、ドアの隙間から覗き込んでオナニーしてる吉住くんが?」  ギクリと体が震えた。 「神田、お前……」 「うん、見てたよ」  神田はそう言って口角を上げた。驚くほど妖艶な笑顔。しかしスッと細くなった目は、決して笑ってはいなかった。 「吉住くんは僕を抱こうとはしないけど、僕がセックスしてるとこを見てオナニーするんだから、結局彼らと同じ穴の貉だよね。気付いてなかった?」  淡々とした口調で俺を断罪する神田。 「君の目は、いつも僕を犯していた。あの男たちの中の誰よりも、君の目は僕を厭らしく見つめていたって、自分では気付いてなかった?」 「お、俺は……俺は……!」 「本当は気付いていたよね? ずっと僕を抱きたかったんでしょう? もうここには誰もいない。僕を抱いても咎める者は誰一人いないんだ」  ゆっくりと立ち上がり、俺に向かって両手を差し伸べる神田。それに導かれるように、俺はフラフラとあいつの元へと近付いた。  頭の中が、ガンガンと音を立てる。こいつに近付いたら駄目だとわかっているのに、足が止まらない。  けれど神田の目の前で、ピタリと足が動かなくなった。これ以上進むことができない。  神田は両手を広げたまま、俺の胸に抱きついてきた。肩に掛けた学ランがバサリと落ちる。 「僕に欲情した時点で、君も奴らと同罪なんだよ、吉住くん。一人だけ綺麗な場所にいようなんてムシのいい話、通じるわけがないだろう?」  神田は俺のベルトに手をかけた。カチャカチャと鳴る音に、股間が膨らみ始める。 「触ってもいないのに、硬くなったね。ねぇ、我慢しなくていいんだよ? 皆と同じように僕を抱きなよ」  あっという間にズボンを下ろし、ボクサー越しに股間を撫で上げる。 「ねぇ、吉住くんのコレで、僕を犯して?」  我慢が限界を超えた。  俺はその場の神田を押し倒すと、そのまま乱暴に抱いた。  直前まで男たちを咥え込んでいた孔は想像以上に柔らかく、ジットリと濡れていて、なんの抵抗もなく俺を飲み込んだ。  神田はすぐに嬌声を上げ、俺は夢中になって腰を振り続けた。  火傷しそうなくらい熱いナカとは裏腹に、握りしめた手は氷のように冷たかった。  全てが終わり、萎えたモノを引き抜くと、ゴポリと音を立てて白濁が流れ落ちてきた。  神田を犯した、俺の、精子。  その卑猥な光景に、堪らなく胸が痛んだ。 ――あぁ、俺は神田が好きだったんだ。  今さらながらに気付いた本心。  想い人を抱いたと言うのに、心はちっとも弾まない。  それどころか重く沈み込む一方だった。  そんな俺の気持ち察したのだろうか。神田は楽しそうな声音で呟いた。 「これで君も奴らと一緒だね」 「違う、俺は」 「何が違うって言うの? 僕を蹂躙したケダモノじゃないか。これからも僕を犯すといいよ。そしてもっと罪の意識に苛まれて、もっともっと苦しんでよ」 「い……やだ……俺はもう、お前を抱きたくない……」 「駄目だよ、拒否は許さない。何もしない振りをして一人だけ綺麗な場所にい続けようとした吉住くんに対する罰なんだから。絶対に、逃がさないよ」  神田は俺の首に腕を巻きつけ、耳元で囁いた。 「卑怯者の吉住くん。僕は絶対に、君を許さないから」  そう言って神田はうっそりと笑った。

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