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第2話
結局あの日、俺は逃げるようにして帰った。変に言い訳をして。
かっこ悪い。めちゃくちゃかっこ悪い。言い訳というか支離滅裂な言葉を吐いて。
「あ…、わり、つい…」
「ど、した…なん…」
「いや、なんか昨日…そう!昨日テレビでさぁ、ドッキリのヤツやってて!芸人の結構きわどい感じのヤツでさぁ、なんか友だちにいきなりキスされたらどういう行動をとるのかその後も友だちとしていられるのか、みたいなさ、1週間密着のヤツ!俺ってすぐ影響受けちまうからさ〜。いや、なんか悪りぃな実験台にしちまって」
「あ、そう、か、そんなのやってたんだ。あんまテレビ見ないから知らなかったな。なんだ、俺てっきり…、や、それで?その後どうなったんだ?その芸人は」
「あー、その頃なんかウトウトしちゃってさ、あんま覚えてねえんだわ」
「そっか。でもあんまりこういう事しない方が良いぞ。勘違いするやつも…いる、かも知れないし」
「あー!そうだな、悪かったって!なんかノリ?とかそんな感じで思っといて。あ、もう行かなきゃ次の逃すと待たなきゃだし」
「そうなのか?駅まで後ろ乗ってくか?」
「や、こっからなら非力なお前に乗せられるより走った方が早いよ」
「言うなってw」
「wwwお前も遠回りになるし、ってか遠回りさせたな、ごめんな」
「いや、俺が飲みたかったんだし、こっちこそ悪かったな」
「全然!じゃあまた月曜に」
「あぁ、じゃあな」
や、これ今考えたらいい感じに別れたんじゃね?不自然なとこなくね?とも思えたが見たテレビってのは何年も前に見たのを咄嗟に思い出しただけだし何よりもまずKにキスしてしまったってのが問題だ。
ちょっと待て、整理しよう。
俺は何故やつにキスした?
思春期だから?一時の気の迷い?
あの時は確か色んな音が聴こえて色んな色があいつの肌に反射して綺麗で…
綺麗だった。
確かに綺麗だった。
それは認めよう、うん。
だからって何故キスをする?
目の前にいたから。
目の前にいるからってするか?いやしない。これは反語だ。むかし習った。
いやいやいや、じゃなくて!
ちょっとググろ…
……………なんだ結局よくわからん…
とにかく親愛の情だったりがないとしないらしい。
動物のキスと人間のキスは違うしそもそも親愛の情を表すなら口じゃなくてもいいそうだ。気持ちいいからする、ってのもあったけどしたことない人間がしたくなる動機はなんなんだ?
俺は女とはした事あるけど男にはない。
わからない。わからないけど多分したくなったからしたんだろう。
何故したくなったのかは分からないがおそらく、俺は、Kのことが気になっている。それも随分前から。
あーね、そこ認めたらもうアレしかなくね?アレってアレだよ、好きなんじゃね?
仮に俺がKを好きだと仮定して今までのことを考えてみよう。
………考えれば考えるほどピッタリ符合していく。
気になったから渡り廊下で声を掛けた。好きになったからあいつの姿を探した。好きだから先輩と仲良さそうにしてるのが気に食わなかった。好きだから赤い唇が美味そうだと思った。好きだから可愛いと思った。好きだからキスした。
もうコレしかない、というほど全てがガッチリはまって、そうなるともう好きっていう気持ちが止められなくなった。
あいつの手に触れた。あいつの唇に触れた。それを思い出すともっと触りたくなった。
あいつの手、柔らかかったな。
ギター弾くくせに指先まで柔らかくてしなやかで…。
白くて細い指が弦を押さえ鍵盤を叩く。柔らかく吸い付くように。
白い肌に赤い唇も綺麗だった。
オレンジの夕陽に照らされた時も、昼と夜の間の薄暗い赤と黒に染められた時も白い肌がスクリーンみたいに色を映して同化するみたいな…。
汗ばんだ肌も不快感なんてなくて。
その日、あいつの手と唇の感触を思い出しながら抜いてしまった。
そうすると思春期真っ盛りの上、恋を自覚したばかりの俺は面白いくらい単純だからその夜Kの夢を見た。
抜いた時に思い出してたKはリアルだったけど夢の中のKは現実よりエロくて…、まぁ朝起きた時困ったよね。
抜いてすぐ寝て起きてすぐ抜く、っていう…なんとも、まぁ猿だなぁと自分でも嫌になってしまった。
朝からドッと疲れてしまったが学校には行かないといけないので支度をして家を出る。電車の中でいつもはイヤホンをして音楽を聴いてるが今日はそんな気になれなくてボーッと考え事をしていた。
恋、か…。冷静に考えて、これは良いことなのか悪いことなのか。
恋をするのは良いことだ。
楽しいし、色々やる気が出たり、まぁ落ち込む事もあるけど恋が齎す効果ってのは大きい。
では相手が男ってのは?
分からない。初めてだから。
好きになるのは仕方ない。好きになったら今まで何をしてた?どうしてた?
好きになったら相手のことが知りたいし話したいし認識してもらいたい。
だからよく話しかけに行った。
それが上手く行けばなんとか付き合いたいと思ったよな。で、告る。
あれ?単純じゃね?
いやいやちょっと待てよ。
告れば良いってもんでもねぇよな。
付き合いたいから告るんだから相手にも自分を好きになって貰わないといけない、ってことは…。
あれ?これむずくね?
相手が女でもむずいのに男ならどうなんだ?俺はゲイじゃない(多分)けど好きになったのがたまたま男だった。
そういう差別なんてないけどみんながみんなそういう訳ではないよな。
もしKがそういうの嫌いだったら?
気持ち悪いって言われたら?
俺はポジティブバカなのでとりあえずそこら辺を聞いてみることにした。
駅から学校まで歩いてる間にまぁなんとかなるんじゃね?的なアレで前向きに(と言うか考えるのが面倒になった)俺は教室に入ってKに話しかけた。
「おー、おはよ」
「あ、はよ…」
「…??」
「どした?元気なくない?」
「いや、別に大丈夫」
「そっか?なら良いけど。あ、もう先生来た!はっや!んじゃな」
「う、うん」
なんだあいつどうした?
腹でも痛いのか?
あとで保健室行くように言っとくか…、なんて考えて、ハッと気付いた。
そういや俺あいつにキスしたな。
良い感じに別れたと思ってたし昨日今日と自分の中で答えが出たり前向きになったりしたけどあいつは?
あいつも何も考えない訳がないし俺みたいにポジティブバカじゃない。
もしぐるぐる考え込んでしまっていたら…。
あー、そりゃ話すの気まずいわな。
そりゃあんな態度にもなるわ。
だっていきなりテレビの影響だって言って(嘘だけど)キスして来たヤツが次に会った時ふつうにしてたら…。
本当バカすぎて自分にびっくりした。
とりあえず謝ろう。そんで差別や偏見ないか聞こう。
俺はポジティブバカだけどポジティブってのは良いことだよな。多分。
昼休みに昼飯食べようってなった時、俺たちのグループで今日購買に行くのは俺とKだけだった。
いつもは弁当持ちの奴も学食で一緒に食うんだけど食ったらすぐに委員会に行かないといけないらしく、一緒には食えないらしい。タイミングが良すぎるよな。
て事でKと一緒に学食に行くことに。
学食の中に購買があるからどうする?って聞くと今日はあったかいの食べたいから学食にするらしい。
じゃあ俺もそうしよ!と券を買っておばちゃんに渡す。
俺はラーメンと親子丼、Kはうどん。
「お前それだけ?」
「え、うん」
「食べないと大きくなれないぞ〜」
「…うるさい。うどんってお腹いっぱいにならない?」
「でもすぐ減る」
「んー、まぁ確かに。でもそんな食えないし」
「親子丼ちょっと食う?」
「いや、あんま好きじゃない」
「なんで?」
「甘いから」
「ふぅん、そんなもんか」
「そんなもんだ」
しょーもない会話をして思い出した。
「あ、そうだ、こないだ悪かったな」
「こないだ?」
「あー…、金曜の帰り…」
「あぁ、まぁ…び、っくり…は、した」
「だろうな」
「テレビの影響受けすぎw」
「あはは〜…、すまん」
「あんま、そういう冗談、慣れてないから…」
「冗談、でもない、けど」
「え?」
「あ〜!なんでもない!ってかダメだな、俺ホントダメだわ。こんななんか嘘とか駆け引き?とか出来ねーし?や、なんか本当申し訳ねえ」
「ちょちょちょ、どうした急に?」
「や、なんかすげー自分が嫌んなってきて、あーもー!なんていうか…」
「ちょ、あんま大きい声出さないで…、みんな見てるし、あの、場所かえる?」
「…あー、まじか、わり…えーっと、部活終わったら話したいんだけど」
「良いよ。なんか緊張する。良い話?悪い話?」
「あー、どうだろな、どっちにも転ぶ話」
「え、なにそれ怖。とりあえず教室戻ろ」
それからうわの空で授業を受け、部活に行ってもまじでクソだった。
もっとドラム上手くなりたいのに。
ダメだなー…。
とりあえず話してからだな!
てか話ってなにするんだ?話したいけど、このままじゃ俺確実に告る流れになるぞ…。
ま、なるようになるか。
部活が終わり、こないだの公園…は、気まずいから別の大きめの公園に行く。そこまで歩くのもなんだか気まずいから俺は先に行ってKを呼び出した。
呼び出したりしたらいよいよ告白、とかなんかそれっぽくね?と思ったけど仕方ない。
あたりが夕闇に包まれる頃、Kがやって来た。
「あ、いた。ちょっと探した」
「え、電話してくれたら良かったのに」
「あ、本当だw」
「わりぃなわざわざ」
「ううん、いいよ」
「えーっと、なんか頭の中ややこしくなるし色々考えたけどグルグルするしなんか性に合わないと言うか…、あー、単刀直入に言うと、俺お前が好きだ。俺も昨日?おととい?気付いたんだけど。なんか前から好きだったみたい」
「は?」
「いや、だからお前が好きなの、意味わかる?」
「え、なんでそんなひとごとみたいなんだよ」
「やー、俺も気付いたばっかだから。なんか今までのこと思えばそうとしか思えないというか…」
「今までのこと?金曜じゃなくて?」
「そう、俺さ、なんかお前が先輩と連弾してんの見て気に食わなかったり、いつのまにかお前のこと探してたり綺麗だなーとか可愛いなーとか、ずっと見てたり肌が白いから唇赤くて美味そうだなーとか、もっと触りたいとか、そんで気づいたらキスしてたんだよね。これって好き以外にありえなくね?」
「……………」
「K?どうした?」
「……お、お前、よ、よくそんな、は、恥ずかしい、こと、す、すらすらと言えるな…/////」
「いやー、もうなんかお前のこと好きって気付いたらさぁもういっかな〜って。本当はお前がそういうの嫌じゃないか、差別や偏見ないか聞こうと思ってたんだけど、なんか若さゆえ?かな?しんねぇけど自分の気持ち伝えたくなったと言うか…。まぁただの自己満足でお前が気持ち悪いって思ったら申し訳ないんだけどさ」
「ちょ、待って、まだわから、ない」
「まーそりゃそうだよな。ただの友達なんだもんな。でもだからこそお前にもちょっとは俺のこと考えてほしいし、その上でダメだ!気持ち悪りぃってなったらもう近づかないし諦める。正直好きだって気付いて自分で盛り上がってるところだからすぐには諦められないと思うしそれ考えたら超悲しいしな…、あれ、悲しいな。でもまあ仕方ないな、と、思う」
「近付かない、って…、もう話もしないって、こと?」
「んまぁ、そうなるな」
「お前変に潔いな…、でも、俺は…突然だし、正直なところよくわからないし…ただ、…」
「ただ?」
「お前と、話せなくなるのは…嫌だ」
「んー、つってもなぁ…このまま俺がお前を好きだけど友だちのままってのもな」
「お前、0か100だもんな…」
「んん〜でも友だちやめるのも辛いものはあるのは、ある」
「…あ、あと…あの」
「ん?」
「べ、つに、…や、じゃ、なかっ…」
「なにが?」
「/////だ、から!やじゃ、なかった」
「だからなにが」
「…き、き、きす…、び、っくりは、したけど…」
「…………!!」
「………」
「…流されてない?」
「やじゃなかった、だけだ…」
「ね、もっかいしていい?」
「な!んで、そう…なる…」
「だってびっくりはしたけど嫌じゃなかったんだろ?そしたらびっくりしない今どうなるか試してみてぇじゃん」
「どういう論理だ…?」
「俺の論理」
ずるいかなって思ったしKにしたら友だちなくすより流された方が楽ってのもあるかもしれない。
けどチャンスっちゃあチャンスだし。
したいのはしたいし。
それでKが俺の事意識してくれたらラッキーだし。
あ、やっぱ俺ずるいな。
両肩を持っても逃げなかったから、というより固まってたから。良い?って聞いても嫌がらなかったから。
言い訳いっぱい作って肩を掴む手に力を入れた。
固まったままギュッと目を瞑ったKに近づき、そっと唇を合わせた。
すぐに離してまたちゅっと合わせ、角度を変えてまたちゅっとキスした。
Kが逃げないからここぞとばかりにキスをした。
何度も角度をかえて、押し付けたり唇を噛んだり、優しく食んでるうちにふうふうと息を逃す唇の間から舌を入れた。
「!!ちょっ!待っ、おま…」
「なんで?きもちーじゃん」
「え、でも、」
「いいから」
「ちょっ、」
「黙ってろ」
「ん、…んんっ、ふ、…」
「ちゅっ、ちゅ、ん…、はむ、」
「ふぅっ、…は、ぁ…んむ、ぅ」
「じゅ、ちゅ、…ふ、ジュル…」
「…ぁ、ん…ちょ、ま、…ぁっ…」
「ちゅる、ちゅ、…ちゅっ、ふ、」
やがて苦しくなったKが俺の胸をドンドン叩いた。
ちゅ、じゅる…はぁ、…、苦しかった?と聞くと涙目で頷いた。
鼻で息すりゃいいのに、ほら、やってみ、ともう一度キスしようとするとガンッと脛を蹴られた。
「いっっって!!」
「…調子に乗りすぎだ、バカ」
「だって、好きなヤツとキスしてんだからさぁ、調子にも乗るだろ」
「だからって、まだ付き合ってもないのに…!」
「付き合う気あるんだ」
にやけてしまう頰を抑えつつそう言うと、真っ赤な顔をしたKが、あ…!と口を押さえた。
こいつ、こんなチョロくて大丈夫かよ、と心配になったが決して口には出さずベンチの上で土下座して付き合ってください!と大声で言った。
おま、ちょ…やめろよ!そんな大声で…と慌てているが俺は狡い奴だから構わず押し通す。
根負けしたKがわかった、って言うまで土下座し続けた。
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