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第3話

 黄金のベッドに黄金の玉座。そこにはツタンカーメンと妻アンケセナーメンの姿が描かれていた。 『ツタンカーメンの黄金の棺にはね、ヤグルマギクの花が添えられていたのよ。きっと若くして亡くなってしまった夫のことを想って、アンケセナーメンが入れたんだわ』  確か妹はそう言っていたように記憶している。黎はジッとその黄金の玉座を見た。 (確かに、ロマンチックですね。きっとそれほどまでに、アンケセナーメンはツタンカーメンを愛していた……)  だが、ツタンカーメンが若くして亡くなったがゆえに、二人の関係は終わってしまう。そんなツタンカーメンの黄金のマスクはすぐに見つけることが出来た。  若く凛々しい面差し、これが妹が見たいと切望していたツタンカーメンの黄金のマスク。黎はしばしその姿に魅了された。ふんだんに使われている青はラピスラズリであろうか。  どこか一点を真っ直ぐに見つめているような眼差しに吸い寄せられそうになる。思わず手を伸ばした。その目尻に伸ばした手は、マスクを覆っているガラスに触れそうになった瞬間にハッと勢いよく引っ込められた。  自分は今、何をしようとしていたのだろう。展示物に触れようとするだなんて、そんな非常識なこと。黎は頭を振ってため息をついた。少し神秘的な空気に酔ってしまったのかもしれない。ツタンカーメンの目から視線を逸らし、黎は歩き出した。  せっかく来たのだからと展示物をじっくり見ていれば、外に出た時にはかなりの時間が経っており、空は茜に染まっていた。後々の予定を考えて、できれば今日中に一度ギザの大ピラミッドを見たいと、黎は運よく来たバスに飛び乗った。  空はほの暗くなりはじめていたが、なんとかギザの大ピラミッドに到着する。その横には大スフィンクスもあった。そのあまりの大きさと神秘的な光景に黎はしばし呼吸を忘れて魅入る。ほの暗い空でもこれほどまでに美しく神秘的であるならば、太陽の光を受ける昼間のピラミッドはいったいどれほどのものであろうか。明日もう一度ここに来て、今度は昼のピラミッドを見ようと思った時、キラッと足元で何かが光った。不思議に思い黎はしゃがみ込んで砂漠の地を見つめる。砂というよりは乾いた岩のような地に挟まるようにして何かがほんの少しだけ覗いていた。岩で傷つけないようにそっとそれを掴み上げ、眼前に翳す。ネックレスだろうか、千切れたビーズを連ねた紐に飾りが付いている。先程考古学博物館で見たような、黄金を使った細かな模様の飾りは、翼を広げた鷹であろうか。ビーズが連なった紐とつなぐ部分には半円形の黄金があしらわれている。黄金の鷹と腕に着けているブレスレットのダイヤモンドが光を反射し合いキラッと光った。 (これは確か……ペクトラル、でしたか)  ツタンカーメンの墓から出てきた宝物と同じような雰囲気を持っているが、流石にこんな場所に古代の宝物がポロッと落ちているはずはない。きっとお土産用か何かで巧妙に作られたイミテーションだろう。誰かがそれを購入してここで落としてしまったに違いない。紐が千切れているから、気づかぬうちに落としてしまったのだろう。それにしても良くできたイミテーションだ。素人目には本物の黄金にしか見えない。それほど精巧に作られているものならば、イミテーションでもそれなりに高価な物だろう。後でエジプト警察にでも届ければ良いのだろうかと考えた時、ふと子供の影が見えたような気がした。

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