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第6話

「えっ――⁉」 「この方に近づくな!」  抜き身の剣を突きつけられて、黎は突然のことに息を詰めた。  ここは日本ではない。銃も剣も持っていて不思議ではないが、それでもこんな風に命の危険を感じることになるとは思ってもみなかった。あまりのことに心臓が早鐘を打つ。ツキッとこめかみが痛んだ。 「で、では、近づきませんから……これを渡してください。もしもそちらの方の物でしたらお返しいたしますから」  震えの治まらない手でペクトラルを一番近くにいた男に差し出す。男は黎に剣を突きつけたままペクトラルを受け取り、それを先程の若い男に恭しく渡した。若い男は指で形をなぞり、ペクトラルを確かめる。 「剣を降ろせ」  その静かな命令に男たちは戸惑いながらも剣を降ろす。しかし何があっても良いようにか、抜き身の剣は鞘に戻さず握ったままだ。  若い男は慣れた身のこなしでラクダから降り、男たちが止めるのも構わず黎の前まで来る。顔を覆っていた布を外して黎にその顔を見せた。目鼻立ちの整った、凛々しい面立ちだった。鋭い瞳は冷酷そうにも見えるが、その口元が笑みに変わると、途端に優し気な印象になる。やはり二十五・六ほどの年頃に思えた。 「確かにこれは私の胸飾りだ。盗まれた覚えもなく紐が切れている。そなたが嘘を言っているわけではないのだろう。先程の無礼は詫びよう。これを拾ってくれたことに礼を言う」  彼はペクトラルの紐を器用に結び首にかけると、再び口元を布で覆った。 「そこの子供と一緒に迷ったと言っていたな。この先はまだ砂漠がつづくゆえ、この闇の中進むのは危険だ。私たちもここで野営する。私の胸飾りを拾ってくれた礼だ。そなたたちも天幕に入るがよい。夜が明ければ子供を町に連れて行こう。徒歩でここまで来ることのできる町は限られているゆえ、何とかなるだろう」  確かにこの暗闇の中で歩き回れば最悪砂漠から出られない場合も考えられる。震えるほどに空気が冷えてきている。薄着の黎も、腰巻をしただけの子供もこの寒さには耐えられない。この状況で若い男の言葉は何よりもの救いだった。 「ありがとうございます!」  安心したようにふわりと黎は微笑む。素直な反応に一瞬若い男は目を見開いた。しかし目元以外を布で覆った彼の表情はわからない。黎は不思議に思いながらも何も言わなかった。

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