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第38話

勝己は将人が帰って来るための準備を少しずつ進めていた。ベッドのシーツを洗ったり、部屋のホコリ落としや掃除もして、部屋の換気もして、きちんとベットメイクされたその上からベッドカバーをかけて。 将人の部屋と尚之の寝室は真逆の方向にある。間に勝己の部屋と、物置にしてる部屋があった。いくら尚之の部屋が防音でも、勝己と将人の部屋は違う。将人の部屋はともかく、勝己の部屋に鍵はない。万が一の時に閉じこもらない為につけてはいないのだ。 こんな関係になったからといって、急に鍵をつけたとなると、将人は疑いを深くするだろう。 疑いを逸らしつつ、一緒に過ごす方法を模索する。将人が勝己に対する執着があることは最初からわかっていたことだ…… 小学生の頃は、たまに二人で一緒に寝てることもあった。幼かったから勝己と一緒、という部分は気に食わなかったが、まだ、可愛いらしいで済んでいたが、年齢的にそんなことを言い出そうものなら、許すことは出来ないし、手を出さない保証もない。 自分の余裕のなさを感じながらも尚之はGWとは違う長い期間の帰省に頭を悩ませていた。 将人は自分と同類の人間だと確信している。 女がダメなのではないが、勝己が特別なのだ。 GWの帰省の時に、たぶん、勝己の雰囲気かもガラリと変わってることには気づいているだろう。何故、将人まで……とは思うが、勝己はそれだけのものを持っている、ということなのかもしれない。 勝己は面倒見がよく、明美が生存していた頃から、将人の面倒をよく見ていた。 実の父親に捨てられた時も、寄り添っていたのは勝己だ。将人にとっては、親以上の存在なのかもしれない。 けれど、それとこれとは話が別だ。 とりあえず、将人は毎日の練習は欠かさないはずだ。早めに寝かせて、2人で抱き合って、明け方に部屋に戻しておけば、勝己は自分の部屋から、「おはよう」と起きてくるはずだ。 体力的には自分の方があるから、朝食の準備は自分がすればいい。勝己には早起きは厳しいだろう。前日から準備をしておくのも方法だ。 たぶん、将人は早朝から練習に出るし、弁当や水筒も必要となるだろうし、水筒の水分だけでは足りないだろうから、飲み物代くらいはまとめて渡してやる。 長期の休みを超えてしまえば、普段通りの日常が戻ることだろう。起きた時に「寂しい」気持ちがない訳では無いが、将人に弱みを握られるのも嫌な自分がいる。 きっと将人にバレたら、ぶん殴られるだろう。 それを見て勝己が泣くことが1番嫌な事だ。 勝己は中立の立場でいることを望んでいるだろう、と思っている。 頭の中では色々と構想を浮かべるも思いどおりに行くかどうかは謎だが、『勝己に触れない日』などはありえない。仕事と違い、組み立てたものが必ずしも思い通りにいくわけがない。 それでも尚之の願い、勝己の思い、将人のことを考えて1番穏便に済む方法を模索するのだだ。いつの間にそんな父親じみた考え方をするようになったんだろう…… 実の子供なんて一人もいないのに、勝己はともかく、将人は後を継がせてもいいと思えるくらいには可愛がってもいる。 ただ、それは『息子』としてだ。 勝己に対する愛情とは違う。 何故、将人は息子で勝己は息子ではなく、愛した人なのだろう……そんなことを考えても仕方のないことだけれど…… とりあえず、まとまった答えが吉と出るか凶と出るかわからないが、時間の経過を待つしかないだろう……

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