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第39話
ここは、紅朱宮(こうずきゅう)。
和と中華の豪華絢爛な雰囲気がこの桃妃宮にも反映されている。
桃李のみが使う事を許されているこの部屋は
彼の他には、彼の夫と僅かな人物しか立ち入る事は出来ない。
その桃妃宮の更に奥。
隣の部屋の隅にある大きな箱の中に桃李は居た。
寄木細工を施した壁の中央には小さな寝台が設けられている。入り口には金の金具扉が付いており、他とは明らかに格別な雰囲気が漂っている。
そこは仙桃妃の為の寝台で、
龍が愛おしい宝珠を愛する為の部屋である。
その扉を開けば甘やかな桃の香りが漂っていた。
現・仙桃妃 天塚桃李が興奮気味に騰礼に話しかけていた。
「目を開けたらデカくなった虎徹が吠えてて」
あの後、予想通り真っ白な空間を脱した桃李は
寸前のまま停止した現実に立っていた。
目の前にはその時のまま窮奇の牙が迫っていたからその額に天帝が用意してくれた石を必死で押し付けた結果、事態は上手くいった。
目を開けたら即死が待ち受けるなんてもう二度と体験したくないと、と興奮気味に訴えるとそれを聞いた彼はふ、と笑ってまた唇が降ってきた。
「面白い事になったな。」
朱色の瞳が遠のいてはまた近付いてきて、
桃李は口を開いてそれを受け入れる。
熱い舌で口腔をまさぐられついでと言わんばかりに、鼻先をぺろりと舐められた。
ほぅ、と熱っぽい息を吐くとこめかみに彼の顎髭が当たる。
「それ擽ったい。」
「嫌か?」
「擽ったい。」
只の照れ隠しだ。
およそ1年振りのこの朱色の瞳、長く結った朱色の髪と擽ったい顎髭を持つこの男は桃李の夫のひとり。
こちらへ来る時に抱えた義栄や常秋、ウィム
白珠国との別れが少しだけ癒されていくのを感じる。
別れ際、義栄が寄越してきた優しい丸い瞳を憶えているのにこうして膝に抱えられ彼のの胸に身を預けていると今はこの男の為に尽くしたいと思ってしまう。
「勇ましいな俺の妻は。」
笑い掛けられて、心臓が軽く跳ねる。
それに、じわじわと寄せられる"気"が桃李の肌を撫でているのが堪らなく嬉しい。
この"気"が唇や腹に入れば桃李の瞳だけではなく
髪も恥ずかしい茂りさえもこの男、騰礼の色に染まる。
ぎゅ、と首にしがみついて、
目の前の顎髭に腹いせに口付ける。
ドキドキしているのが自分だけだなんてフェアじゃない。
「可愛いな。」
騰礼が優しい瞳をして言う。
クック、と笑う声が低く響いて心地良い。
「騰礼」
この男を守ると誓った。
義栄の次は、騰礼の番。
早くーーー
声には出さないまま顎髭と頰に舌を這わせる。
なぞりながら少し尖った耳殻へと進む。
カサついた耳たぶを甘く吸い付いてふっ、と息を吹き込んだら限界だった。
ーーくそっ、恥ずかしい。
言葉少ないこの男は
その朱色の瞳が何より雄弁なのだ。
堪らずまた首にしがみついて顔を埋めると
名前を呼ばれ顔を上げると騰礼がこちらを見ていた。
正確には、見つめていた。
また舌を絡め合いながら互いの瞳を食い入る様に見つめ合う。
「んふ...ふ、んぁ。」
騰礼の口付けは長い。
太い舌が満遍なく桃李の舌を這い回り、
逃げ出すと追いかけ絡みついてくる。
思わず漏れた甘い声さえも
騰礼の喉に吸い込まれて行くみたいで
火照った身体は淫らに腰を揺らめかせてしまう。
桃李にとって龍の唾液は媚薬であり
こうして昂る桃李の"気"は、
四龍にとっては極上で唯一の美酒。
穢れを祓い、力を漲らせ至福を湧き上がらせる
最強の龍達のとっておきの宝。
それが仙桃妃。
「桃李」
「ぁ...あ... ...んぅ。」
浴衣の裾から大きな手が忍び込んできた。
桃李の脇腹を丹念になぞり
やがて胸の飾りに辿り着くと下から腰がぐっと押し付けられ擦り始めた。
「あ、ぁあっ、一緒にするなよ...っ、ん」
秋を基準として巡る仙桃妃の務めとして
桃李が最後に義栄と肌を合わせたのは
もう一月も前の事。
シルバーに染まった瞳が
元の薄桃色に戻る今日まで
桃李は誰の熱も受け入れていない。
その純粋な薄桃色の髪を撫でながら騰礼が微笑む。
「お前を初めて抱いた時を思い出す。」
「... ...んぅ、?」
「お前はあの時もこうして俺を翻弄した。」
「うわぁ!」
ドサッと背中が突然後ろに倒された。
勿論柔らかな朱色の布団に着地してどこも痛めなかった。
はぁ、と熱い息が聞こえハッと目を向けると
そこには浴衣の帯を解き
鍛え上げられた上半身を惜しげもなく曝け出す騰礼の身体が見えた。
「また俺の色になったお前が見せてくれ。」
そう言って降ってきた唇を
桃李は喜んで受け入れた。
◯◯◯◯◯
「ん、んっ、騰礼...そこ、そこっヤダってば...、!」
同じく朱色の枕を桃李は握りしめていた。
蕾の内奥深くまで挿入ってきた騰礼の剛直は
桃李が感じる一点とは違う部分を先程から執拗に擦り上げていた。
深く入り込んだ奥のキツく締め付けてみせる内奥を目覚めさせる様に小刻みに騰礼が突き込んでいた。
ーーー妙なクセが付いてる。
そう言ってイキそうになる度、
桃李の屹立を握りしめ射精の邪魔をしては
絞り上げる様に締まる内奥からも騰礼は熱を引き抜いた。
そうしてとうとう、桃李はさっきの様にまたおねだりを始めてしまう。
イヤだとイキたいを繰り返し首を左右に振り
髪を乱してはおねだりをくちにして腰を揺らしてしまうのだ。
本当は内奥の壁側の少し左を
もうすぐにでもゴリゴリ擦って欲しい。
我慢なんてもう出来ないのに、
執拗に突かれ続けた部分からじわじわと溢れ出てくる快感もできれば味ってみたい。
貪欲に淫らに気持ちよくなりたい。
「んぅ...んんぁ、んあぁーーー。」
「ふっ、声が甘くなった。これはどうだ?」
「あっ、ヤダ、押すのヤメ... っ、んぁあー!」
桃李の制止も聞かず騰礼は腹に手をかざすと
グッと下腹部を軽く押した途端、桃李は精を吹き上げていた。
同時に内奥でも果て、身体中が騰礼を締め付け、骨まで快感を得た。
ナカが濡れる様な錯覚を生ませるほど
桃李は尻で感じていた。
実際、騰礼の熱い愛液もたっぷりと流し込まれ本当に濡れているのだが。
これで受精出来るかもしれないと思うほど身体が作り替えられたような気がして、見上げるとそこには瞳を灼熱にギラつかせた炎の龍が居た。
「お前のナカが俺を欲しがっている。」
「ぁっ、あ、んなぁーぁあ、押すなあ、あ!」
軽く腰を揺さぶられ濡れた内奥がぬちぬちと音を鳴らす。
その音が恥ずかしくて思わず目を背けると、すかさず腹を圧迫された。
また、じわとナカが濡れた気がして桃李はもう訳がわからなくなってきた。
「おかしくな、る...おれ、おかしぃ」
「あぁ、すっかり柔く蕩けている。」
「おれ...はらんじゃうの、とーれい?」
もし、そうなったらーーー
既に前例は有るのだ。
身も心も蕩かされこの身に愛しい命が宿るのなら
それはどれだけ幸福な事か。
桃李はふわりと頰が緩むのを感じた。
人の子ですら可愛いのに虎の子も可愛かった。
それなら。
"騰礼の子も可愛いよ"
そう思ったら頰どころか目まで緩みそうだ。
とろりとして微笑む桃李に
騰礼は何故か目を逸らすと教えてくれた。
「朱雀は賢く美しい鳥だ。お前もきっと気にいる。」
顔が赤い気がするが、
そこは妻としての特権で秘密として独り占めする事にしよう。
何よりも愛おしい男達が
こうして見せてくれるひとつひとつの心が
桃李の喜びなのだから。
◯◯◯◯◯
騰礼は隣で眠る妻の額をさらりと撫でていた。
1年を過ごした場所から離れることは
きっと桃李にとっては辛い事だった筈なのに
こうして自分の側で務めを果たしている。
労わるつもりで触れていた筈なのに
騰礼が冷静でいられたのは
桃李が楽しそうに話している間だけだった。
そこからは半ば嫉妬に駆られ
目の前の妻に執着する只の男だった。
桃李を初めて抱いたのは騰礼だった。
その時には無かったクセが
この1年の間に桃李の身体に染み付いていた。
内奥深くの左側を触れてやると
桃李の屹立はあっという間に蜜を溢し始めた。
それがどうにも騰礼の気に障って
まだ感じにくい部分を敢えて執拗に愛撫した。
結果、桃李は触れる度に身を震わせ
ナカを蕩かさせ甘い蜜を滴らせてくれた。
あれから何度も桃李の蜜を吸い
チカラを漲らせては桃李を貪って抱いた。
"騰礼の子も可愛いよ"
きっと桃李は気付いていない。
頭の中で考えていたのだろうが
実際は甘く鳴く唇からそう言葉を紡いでいた。
思わず緩む頰をなんとか隠せただろうか。
騰礼は朱色に染まった桃李の眉をなぞり
額にそっとキスをする。
「お前が俺の子を生んでくれると言うのなら
言っておく必要があるのかも知れないな。」
もし、
何れそうなった時の為に。
騰礼は風音に紛れそうな程微かな声で囁いた。
「朱雀の子は卵から孵るんだぞ。」
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