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第44話
「騰礼っ、!」
桃李は無我夢中で階段を駆け上がった。
刺す様な気配が、そこかしこに渦巻いており一番濃い気がここに漂っている。
この紅の漆扉の向こうに騰礼が居るのだ。
無事で居ろ、それ以外に願う事は無い。
それだけで良い。
だから意を決して扉を開けたその瞬間、桃李は息が出来なくなったーー。
「何だ、これ... ...、あ」
鼻と口から呼吸を塞ぐ程の熱風が雪崩れ込んでくる。熱がドス黒い気が身体中を蹂躙し、まるで内臓を焼く様な痛みが桃李を襲う。
「と、れぃ...?」
それでも必死で息を吸うと肺に激痛が走る。
グゥ、と無様に唸っては、馬鹿みたいに冷や汗が垂れるが、そんな事はどうでも良い。
こんな痛みより大事なものが桃李には有る。
「騰礼... ...っ、おい...っ!」
陽の光を拒絶した部屋の中で、床を這って涙が滲む視界で彼を探す。
「おい、騰礼っ、返事...しろよ」
暗い部屋ではあまり見えない。彼は何処だ。
もう一度目を凝らし涙を乱暴に拭うと、ぼんやり朱色が見えた。
更にもう一度呼ぶと今度は朱色が揺れた。
そこに、居るのか
無様に砕けた腰で桃李は這い進む。
ガタガタと震える足が押し殺せない恐怖を滲ませていた。
完全にこの空気に、この空間に呑まれている。
窮奇と立ち向かった時とは全く違う"恐怖"の匂いがする。
これは"二人"の恐怖の匂いだ。
彼を失うかもしれないという恐怖に、桃李は耐えられない。
勿論、四龍それぞれが桃李にとって大切でそこに差など無いが、一度ならず二度も三度も彼の瞳を、顎のざらりとした髭を愛おしく思ってしまったら、失いたく無いに決まっている。
桃李はもう一度、彼の名前を呼ぶ。
「とぅれ、い..,」
ーーあぁ、見えた。
ギン、と朱い瞳がこちらを見ている。
その朱い瞳のひと睨みで、桃李は完全に腰が抜けてしまった。
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