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梅雨のある日
ぼくちんには見覚えがなかった……ご主人様をこんなにも怒らせる理由が何かということに。
「300万やるから、今すぐ出ていけ!」
分厚い封筒をぼくちんの方に投げて叫ぶご主人様。
最初は今日お休みだから、いっぱい遊んでくれる前戯かと思ったのに、なんかイヤな雰囲気が漂っている。
「ぼくちん、なにか悪いことでもしましたか?」
ぼくちんに背を向けたまま、ご主人様は黙っている。
「ぼくちん、我慢できましゅよ……ご主人様のためならなんでもいたしましゅから」
ご主人様の近くに四つん這いで歩いていって、ご主人様の好きな微笑みを浮かべた。
ゆっくりと振り向くご主人様に安心してより気持ちを込めて微笑んだのに、返ってきたのは勢いのあるビンタだった。
「いいから出ていけ! お前なんかいらない!!」
いつもとは比べ物にならないくらい痛い頬を押さえているぼくちんをご主人様は引きずっていき、玄関から外へ投げ捨てた。
「帰ってくんなよ……お前なんか、もう知らねぇ」
ご主人様は吐き捨てた言葉と共に、またぼくちんの方に封筒を投げて、ドアを閉めてしまった。
「ご主人様! ご主人様!!」
風で横やりに降っている雨が冷たいという感覚よりいきなり捨てられたのが理解出来ないぼくはドアを叩いて叫ぶ。
何十分、何時間そうしていたかわからないけど、ぼくは一旦諦めて二足歩行でアパートを離れることにした。
久しぶりの外に出て、久しぶりの雨に打たれながら久しぶりの二足歩行で歩いているから、足取りはおぼつかない。
もしかしたら、倒れたぼくをご主人様が助けに来てくれるかもしれない
なんて淡い希望を抱きながら、槍のように降る雨の中を歩いていく。
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