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第2話 普通のカフェ

イリゼとアヴェルは広場の目の前にあるカフェて働いていた。何十年も前に開店し休むことなく営業しているどこにでもあるような店だ。 「いらっしゃいませ、セイルさん。久しぶりですね」 「ああ、少し出張に出かけていてね」 「いつもと同じのですか?」 「頼むよ」 カフェの外に置かれたテーブルで接客をするのはイリゼだ。 明るさと人懐っこさが特徴の彼には接客はピッタリの仕事だった。 「アヴェル、セイルさんにエッグベネディクトひとつお願い。いつも通りソースはかけないで、横にね」 「ん、了解」 店内の小さなオープンキッチンから顔を覗かせるアヴェルに注文を告げると、イリゼはアヴェルの頬を撫でた。 2人が働くこのカフェは、どこにでもあるような大きくもなく小さくもないカラメッラと言う町の中心部にある。 カラメッラで育ったイリゼとアヴェルも、この町の子供たちみんながそうするように、幼い頃は目の前の広場で遊び、親に連れられてこのカフェを訪れていた。 何の変哲もない普通の広場だが、中には噴水や芝生があり、ありきたりだがその一角で陽気に鼻歌を歌う男性が採れたての果物を売り、少し離れたところでは、不機嫌だけれど話してみると意外と親切な老婦人が色とりどりの花を売っていた。 「セイルさん、先にコーヒーをどうぞ」 「ああ、ありがとう。そういえば、もうすぐ梅雨だな、イリゼ」 「そうですね…」 「今年も集めに行くのか?」 「はい…」 「そうか。今年は例年より大変だと思うぞ」 「…」 何の変哲もないカラメッラの町にも夏の前に梅雨が訪れる。 どの町の梅雨にでも起こるようにこの町にも梅雨になると空からアメが降るのだ。 ただし、降るものはアメはアメでも雨ではなかった。 そう、カラメッラは、梅雨の時期を除けば世界中のどの国にでもあるような普通の町で、夏には暑くなり、冬には寒くなる。雲一つない晴天の日もあれば雨雲から雨が降り注ぐどんよりとした日もあるのだ。 雨も降るカラメッラで、アメはアメでもではないアメが降るのは梅雨の時期だけだった。 いつの頃からそうなったのかは分かっていない。花屋の老婦人は115年前だと言うし、チーズケーキ屋を営む夫婦によるとそれは200年も前から起きていたことらしい。 原因や仕組みなども未だに解明されていない。 町一番の博士や科学者、気象学者、それに世界を旅する航海士が解明に向けて研究を重ねてきたが、答えは見つからないままだった。 しかし、慣れと言うのは不思議なもので、原因も仕組みも分からないことでも百年以上たてば普通のこととなっていく。 そんなこんなで解明を急いでいたのはアメが降りだしてから数年の間だけ。10年も経つと、カラメッラの人々は梅雨を待ち遠しく思い、歌を歌い、かごを手に思い思いアメを集めるようになったと言う。 「はい、セイルさん、エッグベネディクトです。ごゆっくりどうぞ」 「いつも通り美味しそうだ。いただきます」

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