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第6話 ポカポカでベタベタ

「アヴェル!できたぞ!」 普段はキッチンに近づかないイリゼが料理をし出してから何時間経っただろうか。 手伝うな、俺に任せろと言われ、寝室で絵を描くことに没頭しだしてから2時間以上は経っているはずだ。 「うわっ」 一階へと降りていくと砂糖の甘い香りが体を満たした。 「なにこれ」 一歩一歩キッチンに近づくにつれ甘さが増す。右に曲がり数歩進むとキッチンの大惨事が目に入った。 砂糖菓子を作っていただけなのに何でこんなにキッチンが汚れているのだろう。片づけまでやってくれるのかなと不安に思っているとイリゼが嬉しそうに近づいてきた。 「アヴェル、見ろ。金平糖だ!」 誇らしげに掲げられたイリゼの手には金色の何かが載っている。 「これ?」 目の前にあるのは金平糖とは似てもつかないもの。 金色なのは間違いないが形はとても歪だ。 「うわっ…」 イリゼに渡された砂糖菓子を手に取るとベタベタと指に張り付く。 「どうだ?初めてにしては上出来だろ?食べてみろ」 言われた通り金平糖を口に含むと、梅雨に降る金平糖に似ているが少し変わった風味が舌に広がった。 「ん……」 不思議な感情が心を満たし心が温かくなる感覚にアヴェルは戸惑った。 「あ、アヴェル…お前…笑ってるのか?」 「え?僕が?」 「ああ、分からなかったか?」 「んーん、でも心がポカポカするよ」 「良かった…」 安心したように目尻を下げたイリゼはアヴェルを抱き寄せた。 「イリゼ、手を洗って。服がベタベタになっちゃうよ」 「大丈夫、俺にはお前がいるから」 「んっ…」 目の前に出されたイリゼの指を口に含むと、アヴェルの心はさっきより温かさを増していった。 「はぁんっ、イリゼ…この金平糖食べると温かい…」 「温かい?」 「うん…幸せな感じ」 「いつもの金平糖より?」 「うん、いつもとは比べ物にならないくらい」 自分の作った歪な砂糖菓子がアヴェルの口を満たし心を温めたと知りイリゼは嬉しくなった。 先ほどまで自分の指を舐めていた恋人の唇は唾液で濡れ林檎色に染まっている。いつも以上に紅く染まった頬が目に入るとイリゼは自分の腹が熱くなっていくのを感じた。 「アヴェル、ここでやるのとベッド、どっちがいい?」 「え?」 「今すぐお前を頂かないと俺が壊れる」 「な、なんのこと?」 「来いっ」

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