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第8話 幸せのアメ
翌年も、その翌年もその翌年も、カラメッラの梅雨に金平糖が降ることはなかった。
金平糖が降らず雨だけが梅雨に降るようになってから10年経つと、雨が降る梅雨がカラメッラの人々にとって普通のこととなっていった。
「ハイラ、いらっしゃい」
「イリゼさん、アヴェルさん、こんにちは」
雨の降る梅雨の放課後に世界で一つだけの特別な店に足を運んだのは16歳になった少年だ。
未だに2人の隣に住む彼も今ではアヴェルの背丈を超え、まだまだ成長期だと言っていた。
「金色の金平糖ってまだ残ってる?」
「残ってるけど先週も自分用にって言って買って行かなかったか?」
「こ、今回は恋人にあげるんだ」
「恋人ぉ!?アヴェル!ハイラに恋人ができたらしいぞ!」
「えっ、おめでとう!わぁどうしよう、お祝いだね!ケーキ焼かなきゃ!」
「そんなことしなくていいから、金平糖ちょうだい」
照れくさそうに小銭を手渡すハイラを前に、イリゼとアヴェルは目を合わせると微笑んだ。
「今回はおまけだ」
「恋人さんを今度連れてきてね!」
あの日からイリゼは少し歪な金平糖を作り続けている。
カフェで売り出してから2年経つとイリゼの金平糖を知らない人はカラメッラで誰一人いないほどになった。
梅雨にアメの降らなくなったカラメッラの町で人々はイリゼの金平糖を口にすると、どんなに仕事で疲れた日でも、どんなに辛いことがあった日でも笑顔になれると言い、カフェに金平糖を求め押し寄せた。
そして、金平糖を売り出してから5年経つとイリゼとアヴェルは広場の近くで金平糖屋を開店させた。
アヴェルの髪色を思わせる薄桃色をテーマにしたその店で2人は毎日働いている。
カフェ時代と違うのは、イリゼがキッチンで金平糖を作りアヴェルが店先で接客をしていることだろう。
梅雨の時期に雨が降るようになり、カラメッラは何の変哲もない普通の町になった。
これからこの先ずっと金平糖は降らないかもしれないし、いつかまた人々が忘れた頃に降りだすかもしれない。それでも今はイリゼが作る金平糖が人々に幸せを与えている。
もし、忙しい日々を送る中で辛くて寂しくてどうしても幸せになりたい日があるなら、休みをとってカラメッラの町を訪れることをお勧めする。
ここでイリゼとアヴェルの店を知らない者はいない。
迷子になったら道順を聞けば誰もが喜んで教えてくれるだろう。
「広場の入り口から真っすぐ歩いて5軒先、「Rain of Happiness 」って看板が目印だ」ってね。
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